事業承継成功に向けて解決すべき「問題」とは?税理士が徹底解説!
税務ニュース
「資産承継」と「経営承継」
“事業承継問題の解消が喫緊の課題である!”
各種メディアでよく出てくるフレーズです。インターネットで“事業承継”で検索すると、実に様々な情報が大量に表示されます。
ところで、事業承継の問題は誰に相談するとよいのでしょうか?
行政機関?
金融機関?
顧問税理士?
M&A仲介会社?
コンサルタント?
事業承継のケースによっても相談相手は異なってくるでしょう。日常的に接触機会の多い専門である税理士が、どういう立ち位置でこの事業承継にかかわってくるのかについて後ほどご紹介していきます。
では、少し具体的に事業承継の問題について考えてみましょう。
事業承継は大きく分けて、「資産承継」と「経営承継」に分けられます。この二つを承継してはじめて「事業承継」といいます。
「資産承継」は文字通り資産としての会社や事業を承継するという意味です。こちらは主に“お金”が問題になります。つまり、資産価値としての会社をいくらで買うとか、売った側の税金がいくらになるかというような話です。お金の問題は解決するのが比較的容易です。なぜなら、金額の多寡で判断が決まるからです。提示された金額に納得すれば実施するし、納得しなければ実施しない。ただそれだけの話です。
これに対して「経営承継」は解決するのが難しいです。経営承継とは何かと突き詰めていくと、“会社の経営を誰に引き継がせるか”ということになります。お金の問題と異なり、経営の引継ぎは簡単にいきません。
一言で「事業承継」といっても、二つの面がありこれらの面を解決して初めて事業承継が成功するのです。
税理士の得意分野は資産承継としての事業承継
事業承継は「資産承継」と「経営承継」に分かれるということを書きましたが、一般的に税理士が得意とする分野は「資産承継」です。
資産承継には様々なパターンがありますが、基本的に何らかの法律に則って処理をするものです。事業承継の代表例ともいえるものに親族内承継があります。これは現経営者の親族が事業を引き継ぐケースをいいますが、その場合には相続や贈与という行為がなされることで承継されていきます。相続と贈与ということになると、税務的な問題も大きいので税理士の活躍の場があるというわけです。
また、M&Aを利用した事業承継については、経営承継については買収する側が担うことになり、そのほかの問題は資産承継ということになるのでここでも税理士の活躍する場はあるでしょう。
いずれのケースでも資産承継の分野については、税理士が関わってくることが多いですが、経営承継となると税理士の関与の度合いは少なくなる傾向があります。
親族内承継と親族外承継
一方、事業を誰が引き継ぐかという点に着目すると、身内と身内以外のケースが考えられます。身内に承継させることを親族内承継、それ以外を親族外承継といいますが、それぞれで課題となることは異なります。
親族内で承継する場合では同族株式を誰が相続するのか、すなわち誰が事業を承継するのかということと相続税の問題が生じます。親族外承継では、相続する人と経営する人が異なるため、問題はさらに複雑になります。それぞれについてみていきましょう。
親族内承継
親族内承継の場合に最も問題になるのが、「だれに同族株式を相続させるか」ということです。常識的に考えて、会社を引き継ぐ親族に相続させることになるのですが、問題は承継しない親族とのバランスです。同族株式は優良企業であればあるほどその評価額が大きくなる傾向があります。しかし、評価の高い同族株式であっても、それを現金化することは難しいのが現実です。
そもそも親族内承継をすると決めていたのであれば、同族株式を売却すること自体を想定していないはずです。そうなると、事業を承継する親族に評価額の大きな同族株式が相続されることになり、ほかの相続人に相続する財産額との差が大きくなることがしばしばおこるのです。ほかの相続人が“同族株式は簡単に売却できない”という性格があるということを正確に理解して遺産分割に同意してくれればよいのですが、自分が相続する財産額と金額があまりに違う場合、その表示された金額だけで損得の判断をしてしまい、分割案に納得できないという人が出てくることがあるのです。
そこに相続税の支払いの問題も関係するため、問題はさらに複雑になります。相続税の納税は原則、現金で行わなければならないため、換金性の低い同族株式を相続した相続人(かつ事業承継者)は相続税の納税についても考えなければならないことになるのです。
これら親族内承継の問題を解決する方法として効果的なのが、遺言を利用した計画的な相続による事業承継だといわれています。親族内での事業承継をすると決めているのであれば、経営権の引継ぎの時期などを計画的に進めることができるはずです。その事業承継計画の中に、同族株式の引継ぎについての計画も入れておくことで、相続による混乱を回避することができると考えられます。その計画の中には、同族株式の相続については遺言による相続人(つまり事業承継する人)を指定することも必要な場合があるといえます。
親族外承継
親族外承継を考えているのであれば、相続が起きる前にある程度の対策を講じておく必要があります。相続が起きる前の対策としては株式譲渡などいわゆる事業承継型M&Aを利用して実施することになりますが、ここではそれらの対策ができなかった場合を考えてみましょう。
事業承継対策が相続までにできなかった場合でも、同族株式の相続は発生します。遺言がない場合、法定相続人のだれかがその同族株式を引き継がなければならないのです。この時だれが引き継ぐかは、基本的にその同族株式を処分(売却)したり、引き継いだ会社を整理できる人が相続すべきだと考えられています。同族株式の処分や引き継いだ会社の整理は想像以上に大変な作業であることは事実です。
著者が経験した相続では、一旦、配偶者が引き継ぐケースが多いですが、引継ぎ後に様々な困難に遭遇することが大半です。引き継いだ配偶者が会社内やほかの会社に売却を目指すというケースもありますが、そもそも会社は継続して事業をしているのでそのオペレーションだけでも難しく、その先の売却までとなるとほぼ不可能に近いというのが現実です。そういう意味からも親族外承継を考えているのであれば、相続前、しかもかなりの時間的な余裕を持ったうえでの対策が必要なのです。
相続が発生してから親族外承継を選択するのは、極力避けた方がよいですが、不幸にもそういう状況になってしまった場合にはどのような方法が考えられるでしょうか。まれなケースではありますが、株主は親族、経営者は親族外という所有と経営を分離して会社経営を継続するという形態も考えらます。この場合、はからずも「資産承継」と「経営承継」を分けて解決方法を考えることで、事業承継を進めることになります。
まとめ
これからの事業承継を考える上で、まずは親族内承継か親族外承継なのかを決めた後に「資産承継」と「事業承継」を分けて考えて事業承継を進めることが大切です。中小企業は大株主が社長という、所有と経営が一緒であるケースが多いです。しかし、親族内承継でない限り、大株主=経営者という状況を維持することは難しいともいえます。事業承継を機に「資産」と「事業」を分けて考えることで、本来の会社の姿である「所有」と「経営」の分離が可能にともいえるでしょう。
ABOUT執筆者紹介
税理士・米国税理士 出口秀樹
BDO税理士法人 札幌事務所
税理士、米国税理士(EA)。BDO税理士法人代表社員、株式会社ドルフィンマネジメント代表取締役。
1967年北海道札幌市生まれ。1991年北海道大学文学部卒。1998年5月出口秀樹税理士事務所開所。より広い専門知識を身につけるため、小樽商科大学商学研究科入学、2005年修了。中小企業の税務、会計、経営のサポートを行うとともに、個人の税務対策などにも積極的に取り組んでおり、その内容は多岐に及ぶ。経営者や幹部、若手リーダー向けのわかりやすい財務分析や財務三表の読み方セミナー、不動産オーナー向けの税務対策セミナーなど講師としても活躍中。2021年7月BDO税理士法人 札幌事務所所長
著書に『知れば知るほど得する税金の本』『知れば知るほど役立つ会計の本』(共に、三笠書房《知的生きかた文庫》)、『会社の整理・清算・再生手続きのすべて』(共著、中央経済社)、『改訂版 会社経営100問100答』(共著、明日香出版社)などがある。
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