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September
退職金が増税に?退職所得の税金のしくみと『課税強化』の意味を解説
掲載日:2023年09月14日
税務ニュース
税務ニュース
今年6月、政府が発表した骨太の方針に「退職金課税の見直し」が盛り込まれました。「勤続年数20年超への優遇措置を見直す」というものです。「退職金課税の強化では」と言われるのは、なぜでしょうか。今回、対話形式で退職所得の税金のしくみと見直しの影響をお伝えします。
登場人物紹介
スエヨシさん:ソリマチ「みんなの経営応援通信」中の人。かき氷と旅行が趣味。お金の計算は苦手。
まゆこ:税理士・税務ライター。「むずかしい税金をいかに分かりやすく表現するか」ばかり考えている。お絵かきが趣味。
退職金は本来あまり税金がかからない
退職金は元々そんなに税金がかからない…ってどういうことですか?
退職金って、退職後の生活資金になるじゃないですか。長く勤めた人であれば、その期間の功労という意味合いもある。こういったものには配慮が必要だということで、あまり税金がかからないようになっているんです。
ふうん…そういえば退職金の税金って、よく知らないなぁ
ここで、退職金の税金のしくみを見てみましょうか。その後で、退職金の課税が強化されても、そんなに心配しなくていい理由を考えましょう
退職所得の税金が抑えられる3つのポイント
退職金は所得税や住民税では『退職所得』という区分です
所得の種類の1つですよね?給与所得、事業所得…みたいな
はい、そうです。退職を機に会社などからもらうお金が『退職所得』になります
ふーん
ちなみに、最近注目されているiDeCo(個人型確定拠出年金)の一時金、自営業者や会社役員の加入が多い小規模企業共済の一時金も退職所得になります
退職金と税(国税庁)を一部加工して作成
気になるところがありますね。『×1/2』とか。なんでだろう
先ほど『退職金にはそれほどお金がかからない』とお話しましたよね。この『×1/2』は、退職所得に税金がかからないようにするしくみの一つなんです
そうなんだ
他にも税金が抑えられるポイントがあります。全部で3つです
ポイント①退職所得控除
1つ目は退職所得控除。さっきの図のこの部分です
退職金と税(国税庁)を一部加工して作成
控除というのは『さしひく』という意味。つまり退職所得控除とは『退職収入からさしひく』ということになります。退職所得控除は、勤続年数に応じて次のように計算します
退職金と税(国税庁)を一部加工して作成
「勤続年数が20年を超えると控除額が増える。結果、所得額が低くなって所得税と住民税が少なくなるわけですね
ポイント②2分の1課税
2つ目は2分の1課税
2分の1…?
さっきの図のここの部分です
退職金と税(国税庁)を一部加工して作成
たいていの所得は『総収入金額-必要経費の額』が税金計算の基準になります。でも退職所得は、退職収入の金額から退職所得控除を引き、さらに2分の1をかけるんです
多額の控除を差し引いて、さらに半分にした金額が所得になるんですね
この2つのポイントで退職所得の金額はぐっと少なくなりますよ
結果、退職所得にかかる税金も抑えられるわけですね
ポイント③分離課税
3つ目は分離課税です。図だとこの部分になります
退職金と税(国税庁)を一部加工して作成
分離課税って?
分離課税とは、対象の所得に単独で税率をかけて所得税・住民税を計算する方法を言います
??
給与所得や事業所得、不動産所得など多くの所得は総合課税の対象なんですよ
総合課税…?
所得を合算した上で税金を計算する。2つの違いを比べると、こんな感じです
総合課税だと、特定の所得が少なくても他の所得が多いと税金も高くなります。特に所得税は累進課税なので、所得が多いほど高い税率が使われます
ふうん
でも分離課税だと、他の所得が多くても影響を受けにくい
給与所得が多くても、退職所得の税金は影響を受けないんですね
そういうことです
ちなみに住民税はどうなるんですか?
退職所得だけ単独で住民税を計算します。他の所得とは、税金を課税して納めてもらうタイミングが違うんですよね
「退職金課税の強化」とは「退職所得控除の計算式を変える」ということ
で、本題。『退職金課税の強化』は、退職所得控除の計算を変えることを言っています
具体的にはどうなるんですか?
20年超か否かで控除額の計算の基準が変わっていましたよね。これを一律『勤続年数×〇万円』というふうにしようということです
20年を超えて働いても、あんまり恩恵を受けなくなるんですね
はい。たとえば30年勤務で2000万円の退職金をもらったとしましょう。このときの計算は次のようになります
退職金課税が強化されても影響は大きくない
私は次の税制改正で退職所得控除の計算が変わったとしても、影響は少ない気がします
どうしてですか?
最近の退職金は金額がそう多くないからです
う…なるほど
ある金融機関の調査によると『全体平均で2,000万円ですが、大企業の平均だと2,500万円、中小企業の平均で1,100万円』だそうです。どちらも勤続年数30年超が目安となっています
50代以下だと転職するのが一般的ですもんね。いちいち退職金のことなんて考えてない。そう考えると、現役世代はたくさんもらえなさそうです
iDeCo(個人型確定拠出年金)の一時金も退職所得なので、これが影響を受ける!という声も聞きますが…何千万円となるケースは少ないのでは
確かに、掛金もそんなに高くないですよね
影響があるのは、企業の役員とか公務員で長期勤務していた方に限られると思います
ABOUT執筆者紹介
税理士 鈴木まゆ子
税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒。ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。ZUU online、マネーの達人、朝日新聞『相続会議』、KaikeiZine、納税通信などで税務・会計の記事を多数執筆。著書に『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、共著)。
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