確定申告をしなければならない人、した方が良い人
税務ニュース
始めに
税理士になりますと、確定申告シーズンに各所で行なわれる税務相談会での相談員の当番が回ってきます。相談内容は多岐に渡りますが、頻繁に質問される内容の中に、「確定申告をしなければならないのか教えて欲しい」というものがあります。実はこの質問、案外に答え難い質問です。質問の文言では、申告義務の有無だけ答えれば良さそうですが、義務は無いが申告した方が良いケースもありますので、質問された方の立場を考えると単純な返答では不適当になりかねません。
そこで、本稿では、個人事業主、ダブルワーカー、並びに法人成りした経営者をターゲットに、確定申告をするかしないかについてまとめてみたいと思います。
確定申告をしなければならない人
(1) 給与を受け取っている人について
サラリーマンであれば、源泉徴収と年末調整により原則的には所得税の計算は完了しますが、次のケースでは確定申告の義務があります。
① 給与の収入金額が2,000万円超のケース
*給与の収入金額=源泉徴収票の「支払金額」=各種天引き前の給与額
② 1社から給与を受けていて
「給与以外の所得(事業所得・雑所得etc)」が20万円超
*所得=売上-必要経費
③ 複数社から給与を受けていて
「年末調整されていない給与の収入金額+給与以外の所得」が20万円超
④ 同族会社から給与以外の収入もある役員やその親族など
例)利子、地代家賃、自動車の賃貸料
注意:トータル20万円以下でも要申告
(2) 受け取った退職金などで源泉徴収されていないものがある。
(3) 事業所得や雑所得など各種所得から、納める所得税が計算される。
申告義務のあるケースをまとめると、以上の様になります。ここで、よくある誤解に「事業をしていても所得が20万円以下なら確定申告はしなくて良い」というものがあります。事業所得が20万円以下であれば、所得控除で帳消しとなり結果的に正しいことも多いですが、青色申告との関連で実は確定申告をしなければいけなかったというケースに注意が必要です。
確定申告をしなければならない人(青色申告)
青色申告の場合、厳密には「確定申告した方が良い」ではありますが、様々な優遇措置が確定申告を条件としています。そして、多くの事業主が、条件を意識せずに制度を利用されていて、条件を見落とすと大きな問題となります。
例えば、税制優遇措置の代表格である青色申告特別控除は大変強力な節税策ですが、65万円の控除を受けるには、申告期限内に確定申告をして青色申告決算書を税務署に提出しなければなりません。少々分かり難いので、具体例で見てみましょう。
(1) 確定申告する
売上400万円―必要経費315万円―特別控除65万円=事業所得20万円
事業所得20万円-基礎控除=課税所得無し
よって、所得税の納付無し
(2) 確定申告しない
売上400万円―必要経費315万円―特別控除10万円=事業所得75万円
事業所得75万円-基礎控除48万円=課税所得27万円
よって、所得税の納付有り
この様に、青色申告の場合、所得税はゼロになるが申告はしなければならないというケースが存在します。なお、所得税が計算されるのに申告しなかった場合には、本来の所得税以外にも無申告加算税というペナルティー的な税金が上乗せされることも忘れてはなりません。
以上のことから、青色申告による計算をするのであれば、確定申告が必要であると考えてしまいましょう。
確定申告をした方が良い人
ここからは、確定申告をすると支払った税金が戻ってきたり、支払うべき税金を減らす事が出来たりするケースを見ていきます。これらのケースでは、申告をすると納税者が得をするだけなので、申告はしなくても良い事になっています。
(1) 退職時に「退職所得の受給に関する申告書」を職場に提出せずに退職金を受け取り、源泉徴収されているケース
(2) 複数の職場から源泉徴収された給与を貰っているケース
(3) 年末調整で提出した書類に記載漏れや誤りがあるケース
(4) 未控除のふるさと納税があるケース(ワンストップ特例から外れているものなど)
(5) 医療費控除を適用したいケース
(6) 雑損控除(盗難や災害による被害への手当)を適用したいケース
(7) 源泉徴収された収入(原稿料など)があるケース
ここまでは源泉徴収された税金が戻ってくるものです。源泉徴収は、所得税の前払のような性格で、多少多めに徴収される場合が多いです。そのため、申告により税金を取り戻せます(還付)。例えば、年末調整では医療費控除は受けられないので、医療費が多額であった場合には申告すると還付を受けられます。
(8) 事業所得・不動産所得などが赤字のケース
事業所得など一部の赤字は他の所得と相殺することが出来ます。結果、給与の源泉徴収分を取り戻したり、所得税を小さくする効果があります。加えて、災害を原因とする赤字は繰り越して次年度の黒字と相殺し、将来の税金を減少させることができます。
(9) 上場株式等の取引で損失が生じているケース
このケースでは、例えば株式売買の損失と配当による収入を相殺して、配当にかかる源泉徴収分を取り戻すことができます。ただし、相殺の対象が限定されることと、扶養控除などの所得控除や国民健康保険に影響がでますので、やらない方が良かったとなりかねないことに注意が必要です。
結びに
個人事業主であったり、退職して独立したり、あるいは住宅ローンの控除を受けるためなど、確定申告を行なう理由は様々あります。そんな中、よくある間違いについて、注意喚起をして結びとさせて頂きます。給与所得のある方に注意して頂きたい事項で、源泉徴収票の内容は全て申告書に転記して下さい。確定申告書に改めて記入しないと無いものとして扱われますのでお気を付け下さい。特に、ワンストップ特例を利用している場合、記入漏れがとても多いようです。
ABOUT執筆者紹介
税理士 柳下治人
柳下治人税理士事務所
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1978年埼玉県生まれ
明治学院大学経済学部 卒業
日本大学大学院経済学研究科修士課程 修了
税理士事務所勤務を経て柳下治人税理士事務所を設立
中小企業の経理、税務、経営のサポートやセミナー講師を手がけている。また、外国籍経営者やギグワーカーとも深く関わりを持ち、YouTubeにて「yagishitax税理士チャンネル」を運営し、UberEatsなどの配達員に必要な経理、申告のHowTo動画など税金にまつわる情報を公開している。