03 June

お酒の転売、シロウトがやると違法になる?法務・税務のリスクを解説②税務編

掲載日:2024年06月03日   
税務ニュース

前回に引き続き、今回もお酒の転売に関する注意点です。今回は税務面についてお伝えします。

登場人物

よっちゃん(以下「よ」):まゆこの夫。行政書士。仕事はできるが税金はくわしくない。特技は料理と釣り。夢は釣り三昧の日々。 


まゆこ(以下「ま」):税理士・税務ライター。「こむずかしい税金をいかに分かりやすく表現するか」ばかり考えている。趣味は、よっちゃんのごはんを食べること。

酒の繰り返し転売には税金がかかる

「気になって調べたけど、前からお酒の転売は問題になっているのね」
「どれどれ…えっ!主婦も?」
「テーマは無免許販売による酒税法違反だけど…たぶん他の税金も納めていないんじゃないかしら」

「『家にある不用品をたまに売る』程度だったら問題ないのよ。生活用動産の譲渡は所得税も住民税も非課税。消費税だってかからない。お酒は生活用動産とは言い難いけど、金額なんてたかが知れているから問題にならない。当然、酒販売の免許もなければ義務も果たさない」
「繰り返し転売だとどうなるの?」
「継続・反復して行っているということは、事業や業務としての性質がある取引だと考えられる。だから課税の問題は出てくるね」

お酒の繰り返し転売でかかる税金①酒税

「お酒の繰り返し転売で、まず気になるのは酒税だね。小売業に関しては2つ義務があるの」
「義務?」
「酒税を実際に納めるのはお酒を作る人と保税地域から引き取る人なの 。お酒の販売に納税はないけど、やらなきゃいけないことが2つある」

酒の販売業者の義務①記帳

「1つは『帳簿つけ』」
「帳簿つけ?そんなの、誰でもやっていることじゃないの」
「それは会計の記帳でしょ。そうじゃなくて、酒類の販売業者ならではの記帳項目があるのよ。仕入と販売それぞれ」

「販売場ごとに帳簿を保管しておかないといけないのよね。帳簿閉鎖後5年間は必須」

酒の販売業者の義務②申告

「もう一つの義務は『申告』」
「申告?」
「所定の用紙に『お酒がどれだけ売れたか』『3月末の在庫はどれくらいか』を書いて報告するの」

「これを毎年4月末までに、販売場を管轄する税務署に提出するのよね」
「これだけ?」
「あと、酒税法上というわけではないけど、小売業だとお酒売り場であることを明示したりしないといけない」
「20歳未満に売らないようにするためだね」

お酒の繰り返し転売でかかる税金②所得税・住民税

「次にお酒の転売で気にしたいのは所得税・住民税かな」
「家の不用品を処分するつもりでお酒の転売を繰り返すケースもあるだろうしね」
「利益額が48万円を超えたら『所得税の確定申告をしないといけないかな』と意識すればいいんじゃないかな」
「なるほど」
「正社員や年金生活者の人が副業的に酒の転売をしても、利益が20万円以下ならそんなに気にしなくていいんだけどね。個人事業主や不動産オーナー、酒転売で生活している人は要注意」

お酒の繰り返し転売でかかる税金③消費税

「あと、消費税もかかるね」
「消費税も?」

独立・反復・継続して行うモノ・サービスの提供は消費税の対象に

「国内でのモノの販売や貸付、サービスの提供は基本的に消費税がかかる。こういうモノの販売や貸付、サービスの提供の売上高が1000万円を超えるなら事業者として消費税を納めないといけない」
「ひええ。消費税なんて、シロウトはいちいち意識してないよ」
「ただ、納税は1000万円超えてすぐではないの。インボイス登録していなければ、だけど。通常は1000万円を超えた翌々年から消費税の申告・納税をする義務が生じる」

「人によっては『これは事業じゃない』って言いそう。『事業所得じゃないし』『確定申告しなくていいって言われたから消費税だってかからないはずだ』とか」
「事業所得は所得税・住民税の話よ。『確定申告しなくていいと言われた』というのは、給与所得者や年金生活者で副業的な所得の金額が20万円以下だからじゃないかしら」
「消費税は違うの?」
「消費税では『モノの販売や貸付、サービスの提供を反復、継続かつ独立して行う』なら事業だ、としているの。事業であって、他の要件も満たすなら消費税を申告して納めないといけないよ、と」
「うーん」
「個人事業主として開業しているかどうかは関係ない。副業で20万円以下とかも関係ない」
「ややこしい」
「税目が変わったら考え方も変わる、と意識するといいかも」

お酒は古物商特例の対象にならない

「まぁでも、お酒の購入も仮払いした消費税相当額を納税額の計算時に差し引けるけどね。原則課税を選んで入れば、の話だけど」
「転売するときのお酒って、どこで仕入れるんだろうね。スーパーだと高いだろうし」
「いろいろあるだろうけど…ネットのオークションとかネットのフリマとかもありそうね」
「前に古物商特例がどうの、と言っていたじゃない。インボイスがなくても仕入れ税額控除できるってやつ。あれは使えるの?」
「使えない」
「なんで?」
「古物営業法でいうところの古物ではないからよ」

「転売する本人が古物商の免許を持っていて古物を棚卸資産としてインボイスの発行事業者以外に売って…と、いくつかの条件を満たせばインボイスなしでも10%相当額をさしひける。でもお酒はそもそも古物じゃないから対象外」
「シロウトにはわかりにくいねぇ」
「お酒だけじゃなく中古品の転売もそうだけど、ちゃんと調べてからじゃないと、後で行政機関に目をつけられるかもしれない。慎重になった方がいいわよ」

ABOUT執筆者紹介

税理士 鈴木まゆ子

税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒。ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。ZUU online、マネーの達人、朝日新聞『相続会議』、KaikeiZine、納税通信などで税務・会計の記事を多数執筆。著書に『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、共著)。

 
ABOUT執筆者紹介

行政書士 鈴木良洋

1974年生まれ。1996年行政書士試験合格、1998年中央大学法学部政治学科卒業。2002年行政書士登録。建設業、司法書士事務所、行政事務所勤務を経て2004年独立開業。20年超、外国人の在留手続を専門に外国人の起業・経営支援を行う。これまでの取扱件数4000件超。元ドリームゲートアドバイザー。

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