悪天候の日の出社の基準は? 休業手当は必要?
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台風や大雨などで天気が荒れる日は、できるだけ外出は控えるべきですが、仕事の都合上無理をしてでも出社が必要になる時もあるでしょう。しかし、悪天候の屋外を出歩くと事故で怪我をする恐れがあるため、企業が従業員に無理を強いてよいのかという疑問も出てきます。悪天候時の出社について、企業はどのように対応するべきでしょうか?
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悪天候時の出社ルールは企業が決める
警報が発令されるレベルの大型台風や大雪の日に、出社するべきかどうかの判断で悩む人は少なくありません。
天候が荒れると予報されていても、実際にどのような天気になるかは当日になってみないとわからないものです。天気予報で散々大雨への注意を促していたのに、当日になってみると小雨程度しか雨が降らなかった、といった経験は誰しもがあるのではないでしょうか。しかし、警報発令中に会社で仕事していると、だんだん天気が荒れていき、従業員が帰宅難民になってしまうパターンもあるので油断は禁物です。
悪天候の日に出社するべきかについての規定は、法律にはありません。そのため、企業ごとに独自の基準で出社の要・不要を決定します。
判断の基準は、従業員の安全を考慮して「どのような状況であれば出社を控えるべきか」という視点で決めましょう。
出社する基準の決め方
出社の要・不要は、公共交通機関の運行状況に基づいて決めるのが一般的です。「通勤に利用している電車の路線が運休している場合は出社不要」といった基準が考えられるでしょう。
なかには、通勤で最も多くの従業員に利用されている路線を企業のメイン路線と定めておき、「メイン路線が運休している場合は休業」といった規定を設けている企業もあるようです。休業にする場合、徒歩で出社可能な場所に住んでいる従業員も休みになります。このような全体で共通の規定があると、出社する人としない人に差がつかないので不公平感が生じません。
都市部の企業は、公共交通機関を利用する人がほとんどですが、それ以外の地域では自家用車や自転車で通勤する人が多くいます。ほとんどの従業員が公共交通機関を利用せずに通勤する企業の場合は、気象情報を出社が必要かどうかの基準にしましょう。「大雨、暴風、大雪などの気象警報が発表されていたら休業する」といったルールを決めておけば、シンプルで従業員が判断に困りにくくなります。
大雨が降ると氾濫する恐れがある川の近くや、土砂崩れが起きそうな山の付近を通って通勤しなければならない従業員がいる場合は、特に警報が発令されるかどうかを重要視しましょう。
公共交通機関の運休による休業であれば休業手当を支給しなくてよい
悪天候で出勤ができない場合の、休業手当の支払いルールも押さえておきましょう。
休業手当について定める労働基準法の第26条には「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」とあります。ここでいう「使用者」とは雇用主である企業のことです。
天候の問題は企業に落ち度はなく、「使用者の責に帰すべき事由」には該当しないため、天候の影響で公共交通機関が運休して従業員が出社できない場合は、休業手当の支払いは必要ありません。
ただし、従業員の安全などを考えて企業の判断で休業にする場合は、企業が休むことを決定しているので、「使用者の責に帰すべき事由」に該当し、規定に基づいて通常の賃金の60%の休業手当を支払う必要があります。
悪天候での出社命令は安全配慮義務違反となる?
労働契約法の第5条では、雇用者である企業は従業員の安全に配慮する必要があるとする「安全配慮義務」を規定しています。
もしも、台風で大荒れの天候にかかわらず出社を命じ、従業員が負傷してしまった場合に、企業が安全配慮義務に問われる可能性があると指摘する声は多く聞かれます。しかし、実際のところ、通勤途中のアクシデントが安全配慮義務の対象に含まれるかどうかは微妙なところです。
安全配慮義務は、業務中の従業員の行動が対象となりますが、従業員が使用者の監督下から外れる通勤の間は義務が発生しないと考えられます。
ただし、過去に起きた、過重労働をした従業員が帰宅途中にバイク事故で亡くなった事件の判例では、裁判所が「使用者は通勤の方法についても生命・身体を害する事故が生じることのないよう注意する義務がある」という内容を一般論として提示した事例もあり、状況によっては、通勤中の事故も安全配慮義務に問われる可能性が考えられます。
安全配慮義務に違反しても罰則はありません。ただし、安全配慮義務違反で従業員が労働災害に遭ったとみなされた場合は、被害を受けた従業員や家族から損害賠償請求をされる場合があります。
また、罰則がないからといって、危険が予測できるような状況下でも従業員の安全を顧みずに出社させる姿勢でいると、従業員が企業に不信感を持つ原因になるかもしれません。
いずれにせよ、致命的なトラブルを避けるためにも、従業員の通勤時の安全をしっかりと考えたルール設計をするべきです。
対応方針は前もって決めておけば安心
悪天候が予想される時は、前もって対応方針を固めておくことが重要です。台風の日に顧客へのプレゼンなどの重要度の高い仕事がすでに決まっている場合もあるでしょう。そのような時も、事前に当日の実施が困難になった場合の対応方針を固めておき、各関係者に共有しておけば安心です。
出社しない場合、その旨を誰にいつまでに伝えるか、といった連絡に関するルールも前もって定めて従業員に周知しておけば、管理職の負担軽減にもつながります。
家で作業が可能な仕事であれば、大型台風が近づいている時は在宅ワークにするといった方針も有効でしょう。
悪天候発生時の出社の具体的方針をまだ固めていない企業は、今後を見越してどのように対応していくのかを検討してみてください。
ABOUT執筆者紹介
内田陽
金融系の制作業務を得意とする編プロ、ペロンパワークス・プロダクション所属のライター兼編集者。雑誌や書籍、Webメディアにて、コンテンツの企画から執筆までの業務に携わる。金融関連以外にも、不動産や人事労務など幅広いジャンルの制作を担当しており、取材記事の実績も多数。