いまさら聞けない賞与(ボーナス)の基本。支給の目的とは?
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例年6月末〜7月にかけては、多くのサラリーマンが待ちに待ったボーナスシーズン。月々の給与と比べてどれくらいの金額が支給されるか、気になっていた方も多かったのではないでしょうか。ボーナスは「賞与」とも呼ばれ、企業の経営方針や業績などにより金額が大きく左右される賃金です。ここではどのような目的で支給されるのかなど、ビジネスマンとして押さえておきたい賞与の基本について解説します。
支給要件は就業規則に明記が必要
賞与とは月々の給与とは別に支払われる一時金のことです。多くの企業では、主に夏と冬の年2回にわたり支給されています。
法律により企業に支給義務がある月給に対し、賞与はあくまで企業が任意で行う賃金払いです。そのため、支給時期や回数には法律の定めがなく、企業によっては支払いそのものがない場合もあります。
賞与を支給する場合、企業はその要件を就業規則に明記する必要があります。一例として、次のような記載が考えられるでしょう。
第●条 賞与
1.正社員については賞与を支給する。但しその勤務成績、および会社の業績等を考慮して減額または不支給とすることがある。
2.賞与の支給日は、原則として次のとおりとする。ただし、当日が休日にあたるときはその前日とする。
夏季賞与 7月10日
冬季賞与 12月10日
3.次のいずれかに該当する場合、賞与についてその一部の減額、または全部を不支給とすることがある。
(1)賞与支給日前1年間に懲戒処分を受けたとき
(2)賞与支給月に入社したとき
(3)その他賞与を減額または不支給とすべき事由があると認めるとき
従業員にとっては公正な賞与の支払いがなされているか、経営層にとっては記載漏れの有無や従業員に内容がよく周知されているかなどを確認するうえで、就業規則は要チェックの資料といえます。
賞与の種類は主に3種類、基本給や業績に連動するタイプなどさまざま
次に賞与の支給目的について触れていきましょう。賞与は一般的に、企業利益の一部を従業員へ還元するために支給されます。
もう少し目的を突き詰めると、企業の経営状況に応じて柔軟に賃金払いを行うことで、従業員のモチベーションアップを図ったり、業績の見通しがある程度ついてから賃金の後払いを行ったりするなど、経営管理のツールとして利用される側面があるのです。
賞与は支給目的や支給額の設定方法により、主に以下の3つのタイプが考えられます。
基本給連動型賞与
比較的多くの企業で採用されており、基本給に所定の倍率を掛けて賞与額を算定する賞与。「ボーナスは給料の〇〇カ月分」と、一般的にイメージされている賞与がこれに当たります。従業員から見ると賞与をいくら受け取れるのか見通しが立てやすく、企業の経営層にとっては支給額の根拠を従業員に納得してもらいやすいメリットがあります。
ただし年功序列の賃金体系をとっている企業では、実績をあげている若手社員より、基本給が高いベテラン従業員のほうが賞与額が高くなる点を十分意識しておくべきでしょう。
業績連動型賞与
主に企業や特定の部門、個人の業績に連動して支給額が決まる方賞与です。上述した基本給連動型賞与と比べ、より成果主義に即したタイプといえます。より良い勤務実績を追求している従業員にとっては、高額な報酬を受け取れるチャンスがあるでしょう。また、経営層にとっては優秀な人材の確保・定着が期待できます。
一方で、思うように成果をあげられず賞与額が下がってしまった従業員については、モチベーションやエンゲージメントの悪化により、さらなるパフォーマンス低下につながる恐れもあります。
決算賞与
企業の業績に注目する点は業績連動型賞与と同じですが、支給時期と支給金額に違いがあります。一般的な賞与は夏・冬の2回に分けた支払いが多いですが、決算賞与は決算後の支給となります。そのため多くの企業では、例年3〜4月ごろの支給となると思われます。
支給額については個人や特定の部門の業務成果などを考慮せず、基本的には決算時点の企業業績に応じて決定されます。決算賞与の支給により、特定の従業員のみならず、企業のメンバーに関して全体的なモチベーションアップが期待できるでしょう。
また賞与は原則として、事業年度の損金として計上が認められています。そのため、利益が大幅に増加して想定よりも法人税額が増えてしまう場合を見越して、決算賞与を従業員に支給することで、一定の節税効果も見込めるのです。
業種や年齢・勤続年数によって相場が大きく異なる
最後に参考として、賞与の相場を紹介します。
厚生労働省「毎月勤労統計調査」によると、2022年における民間企業(事業所規模5人以上)の労働者一人あたりの夏季および冬季の賞与平均額は、それぞれ次のとおりでした。
夏季賞与2022年 | 冬季賞与2022年 | |
調査産業計 | 38万9331円 | 39万2975円 |
※夏季賞与は厚生労働省「毎月勤労統計調査 令和4年9月分結果速報等」、冬季賞与は「毎月勤労統計調査 令和5年2月分結果速報等」より
また、上記調査では産業別の賞与額も明らかとなっています。直近の冬季賞与では、電気・ガス業(平均80万5880円)や情報通信業(平均66万2768円)は比較的賞与額が高く、反対に飲食サービス業等(平均6万7605円)や生活関連サービス等(平均16万4324円)が最も低い部類となりました。業種によって、平均支給額に10倍以上の差がつくことも珍しくないのです。
また、厚生労働省「賃金構造基本統計調査」では、年齢層別の平均支給額が確認できます。
年間賞与その他特別給与額 | |
〜19歳 | 42万1400円 |
20〜24歳 | 50万1200円 |
25〜29歳 | 82万2600円 |
30〜34歳 | 113万万4900円 |
35〜39歳 | 136万4600円 |
40〜44歳 | 150万500円 |
45〜49歳 | 164万1900円 |
50〜54歳 | 184万4700円 |
55〜59歳 | 190万400円 |
60〜64歳 | 136万7200円 |
65〜69歳 | 86万5300円 |
70歳〜 | 71万5200円 |
※厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査」より調査対象となった産業・役職・学歴をすべて含むデータ
基本的には年齢が上がるにつれて支給額も上昇していきますが、50代ごろに支給額のピークを迎え、その後は減少傾向に。このように賞与は従事する業種や、年齢や勤続年数などによって、金額が大きく左右される賃金といえるでしょう。
従業員の立場では、まずは勤務先の企業が賞与額をどのように決めているのかを確認し、さらに同業種・同年代の賞与額の相場も考慮して、自身の働き方の参考とすることが大切です。例えば、より成果主義に即した働き方がしたいならば、基本給が現在の勤務先と同程度でも、より業績と密接に連動している賞与制度がある企業を志向したほうがよい場合もあるでしょう。
また企業の経営層については、業界の平均的な水準を意識しつつ財政に影響のない範囲で、従業員が納得感を持てる支給額の設定が重要といえます。賞与制度のメリットと注意点をよく理解したうえで、活用していきましょう。
ABOUT執筆者紹介
藤田陽司
各種金融系情報誌の編集・執筆業務を行うペロンパワークス・プロダクション所属。株・投資信託、暗号資産、年金などの編集・執筆を担当。不動産メディアの取材記事の企画・コンテンツ制作にも携わる。地方整備局公務員、業界新聞編集記者などを経て入社。建設関連の記事執筆や編集業務の経験を持つ。AFP/2級ファイナンシャル・プランニング技能士。
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