減価償却費の計算に必要な「事業の用に供した日」の意義
税務ニュース
「事業の用に供した日」の解釈
車や建物の固定資産は、取得したタイミングではその全額を経費とすることはできず、固定資産を使える期間に応じ、減価償却という手続きで、時の経過に応じて一定額を経費とします。この減価償却費の計算で問題になるのは、「事業の用に供した日」という解釈です。
この理由は、「事業の用に供した日」から減価償却費を計上することになるからです。文字通り、この日は固定資産を事業のために使った日を意味し、買っても使っていなければ減価償却費を計上することはできません。
考え方はシンプルですが、パソコンなど、取得した日からすぐに使えるようなものは別にして、例えばレンタル用に車を買った場合などは疑義が生じます。取得した車は使えるものの、借手がつかなければ、事業に使ったとは言えないのではないか。このような疑義があります。
国税の内規から見る二つの要件
この点、国税の内規を見ますと、「事業の用に供した日」とは、①資産の属性に従い、②本来の用途用法のとおり現実に使用を開始した日を意味する、と解説されています。①の資産の属性とは、固定資産における資産の区分、具体的には機械装置や器具備品など、固定資産を細分化した区分を意味します。
パソコンなどの器具備品については、それを取得するとすぐに使えるものが多いため、取得日と事業の用に供した日は一致することがほとんどです。その反面、超高額な機械装置の中には、試運転をするまでは本格的に使えないものもあります。即ち、資産の区分によって、「事業の用に供した日」の判断が変わる場合があります。
太陽光発電設備とフェンスについて争われた事例
これに関し、太陽光発電設備とそのフェンスについて、「事業の用に供した日」の判断が問題になった事例があります。税務署は、フェンスは太陽光発電設備のために設けられるものなので、太陽光発電設備と一体の機械装置になると判断しました。その上で、フェンスは機械装置の一部になるため、太陽光発電設備と同様に、系統連係工事が完了し売電が開始した日が「事業の用に供した日」であると主張しています。
しかし、この事例では、フェンスは「機械装置」である発電設備ではなく、「構築物」という別の資産であると判断されています。太陽光発電設備が実際に稼働していなくとも、フェンスは建築されれば太陽光発電設備の盗難などを防止するという役割を果たすことができます。このため、売電できなければ意味がない太陽光発電設備とは異なり、その建築されたタイミングが「事業の用に供した日」であるとされたのです。
本来の用途用法の意義
この判断は、上記②にも影響します。資産の区分に応じた本来の役割が重要になりますので、冒頭のレンタルの車についても、レンタルできる状況にありさえすれば、レンタルという本来の役割を果たすことができます。このため、借手が仮に一人もいなくても、その車を顧客にレンタルできる状態になった日が「事業の用に供した日」になります。
一方で、試運転完了時に引渡しをする条件で機械を購入した場合には、試運転が終わる日が事業の用に供した日に当たると解説されています。試運転が完了しない限り自己の資産とは言えませんので、いつでも使える状況にあるとは言えないからです。このため、資産の引渡しの条件なども確認する必要があります。
ABOUT執筆者紹介
元国税調査官・税理士 松嶋洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。