09 December

経営相談の現場から[シリーズ第6回]経営がピンチのときは、ぜい肉を落とすことを考える

掲載日:2024年12月09日   
起業応援・創業ガイド

筆者は経営コンサルタントとして、日々経営者の方々のお悩みを伺っています。このシリーズは「経営相談の現場から」というテーマで、中小企業経営者や個人事業主の方から実際にあったご相談内容を取り上げます。今回は、経営状況が悪化しているというF社長からのご相談を取り上げます。

支払いが集中する月末は毎回ヒヤヒヤ

F社長 「小学生向けのプログラミングスクールを経営して10年目です。僕はとにかく会社を大きくしたい気持ちが強くて、毎年出店を重ねてきました。今では10店舗になって、スタッフは50人、年商は1.5億円ほどになりました。」

筆 者 「10年で10店舗出すとは、果敢に挑んでいますね。大変だったでしょう。」

F社長 「はい、夢中でやってきましたが、いつもお金の余裕がありません。毎年新規出店していますから設備投資の負担が大きいです。借入もめいっぱいしているのですが。」

筆 者 「設備投資だけでなく、新店の赤字を手当てする資金も必要ですよね。おそらくどの店舗もオープン後しばらくはどうしても赤字期間があるでしょうから。」

F社長 「そうなんです。業歴が長い店舗は安定して稼いでいますが、稼いだ利益は出店費用や新店の赤字補填に消えます。」

筆 者 「一番大きい支払いは人件費でしょうか。」

F社長 「はい、一番は人件費で、給与の支払いは毎月1000万円以上あります。次に家賃です。給与も家賃も支払いが月末なので、月末はいつも預金残高を見てヒヤヒヤしています。」

事態を改善しようとして、より苦しくなりました

F社長 「そんな中で、困ったことがありました。去年出店した新店Aは、大通りからよく見える店舗でしたが、オープン後まもなく、店舗と大通りの間にあった空き地に建物が建ちました。」

筆 者 「大通りから見えなくなってしまったんですね。集客しづらいですね。」

F社長 「はい。お店がすっぽり隠される格好になってしまって。しばらく頑張りましたがやはり集客できないので、新サービスとして家庭やオフィスのパソコンの出張修理サービスを立ち上げて、新店Aはその拠点として活用することにしました。」

筆 者 「それは合理的ですが、新サービスの集客というのも大変ですよね。どうですか。」

F社長 「苦戦しています。出張修理の広告をあちこちに出しましたがあまり反応がなくて。サービスの立ち上げにあたってはマニュアル作成や価格設定をコンサルタントに頼んだので、業務委託費もかさみました。こうなると資金の減りが激しくて、正直なところピンチに陥っています。」

筆 者 「事態を改善しようとして動いた結果、より資金が流出してしまったというわけですね。」

やるべきことは一通り頑張ってきたけれど・・・

F社長 「新店Aが建物の陰になって集客できなくなってからというもの、ピンチを抜け出すためにやるべきことは一通り頑張ってきました。既存店の集客に力を入れたり、値上げしたり。資材や光熱費のコスト削減も地道に頑張っています。」

筆 者 「地道な取り組みは欠かせませんね。新店Aのダメージは大きいと思いますが、そういう取り組みでカバーできますか?」

F社長 「正直なところ焼け石に水で、追い付きません。それで、新サービスの出張修理を立ち上げたり、次の新店を出したり、攻めを織り交ぜて走り回っています。」

筆 者 「新たな収益源を増やそうということですね。」

F社長 「はい。でも出張修理の新サービスは、却って赤字が膨らむ結果になっています。」

筆 者 「難しいですよね。“収益源を増やす”策は、うまくいけば良いリターンが期待できますが、リスクもあるのが怖いところですね。うまくいく確証がない限り、経営に余裕がないと挑戦しづらいですね。」

余裕があるときとピンチのときでは、取るべき策が違う

筆 者 「今は資金の余裕がないピンチのときです。こういうときは、考えるべき策がもうひとつあります。“事業の縮小”です。」

F社長 「えっ、事業を縮小?」

筆 者 「例えば不採算店や赤字サービスの撤退といったことです。これまでの投資があるので“損切り”になりますが、これ以上の資金流出が許容できないならあり得る選択です。もうけが小さい取引は契約を更新せずに手を引く、というのもこのひとつです。単に事業を縮小するのではなく、ぜい肉を落とすような感覚です。」

筆 者 「事業を縮小して、店舗や設備や人員も、減らせるものは減らします。質の良い、利幅の大きい商売に集中する。そうすると売上は減りますが、費用も減り、“筋肉質な会社”にできます。」

F社長 「筋肉質な会社にするという発想はありませんでした。たしかに、利益を出せないなら規模が大きくても意味がありませんよね。」

筆 者 「そうですね。会社の状況によっては、事業を縮小することで利益を増やせます。F社長の会社もそういう状況のはずです。新店Aなどは初期投資分をまだ回収していないでしょうから簡単な判断ではありませんが、ピンチのときは、周囲の人の意見も聞きながら冷静な判断をしたいところですね。」

ピンチのときは一旦かがんで筋肉質な会社になって、再び高くジャンプしよう

ピンチのとき、経営者には、一時的にしゃがんで筋肉質な会社になって、力(資金)をたくわえて、その後にまた高くジャンプしよう、という発想が必要だと思います。ピンチに陥ってもリスクを伴う攻めの打ち手に終始していると、資金が尽きかねません。いざというとき、落ち着いて“かがむ”という選択肢を検討できるように、F社長の事例をぜひ頭の片隅に覚えておいていただけたらと思います。

(注)本記事の内容は実際にあったご相談内容をもとにしていますが、事業者様を特定できないように多少のアレンジを加えております。
ABOUT執筆者紹介

経営コンサルタント 古市今日子

株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士

外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積み、2016年独立。
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営指導員などを務める。
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件

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