コロナ禍でのインフルエンザ対策~この冬予想される特徴~
社会保険ワンポイントコラム
例年この時期に産業医はインフルエンザについての講話をしています。インフルエンザは冬場に流行して多くの患者を出し、時に職場で流行するものだからです。毎年お決まりのお話になりがちですが、今年は少し様子が違います。もちろん新型コロナのためです。今冬ならではの予想される特徴と、会社の対応策について以下に述べたいと思います。
インフルエンザとコロナはよく似ている
インフルエンザは急な寒気や全身の痛み、39度を超える高熱などが典型的な症状の、主に冬場に生じる呼吸器(のど・鼻など)の感染症です。一方、新型コロナウイルス感染症の症状については味やにおいがわからなくなることが非常に多いなど色々なことが言われていますが、高熱などはインフルエンザとそっくりな症状です。
若い人や、壮年層で持病がない人の場合、インフルエンザが直接命にかかわることは非常にまれです(インフルエンザ関係で亡くなる典型は高齢者がインフルエンザにかかって、肺がダメージを受け、そこに別な細菌が入って肺炎をおこして死に至るというものです)が、50歳代以降の人が新型コロナかかった場合無視できない程度の命の危険がありますし、後遺症の頻度も高く(倦怠感や息苦しさなど)、また長く続く方が結構多いと言われています。
高熱で病院を受診した場合、新型コロナかインフルエンザかの区別が難しい上、コロナの見落としは命にかかわりますので、医療機関の負担は相当に高くなることが予想されます。
インフルエンザを減らすことが重要
このような事態を少しでも改善するには、インフルエンザになる人を減らすことが大切になります。
インフルエンザは毎冬数百万人かかると言われています。これが半分になるだけで、コロナの見落としリスクは相当に下がります。インフルエンザのワクチン効果は100%ではないですが、罹患者数を抑える効果があります。コロナのワクチンがあれば理想ですが、世界中がこぞって開発しているにもかかわらず今のところありません。コロナの治療が遅れないように、また医療機関の負担を減らすためにもインフルエンザのワクチンを打ちましょう。
ただし懸念材料があります。インフルエンザのワクチンの生産量はその年の春くらいには決まってしまっています。しかも今年は医師がこぞって接種を強く勧めているので(私も勧めています)品薄になることが予想されます。厚生労働省はなるべく高齢者を優先して接種するよう協力を求めています。過去五年で最大級の6300万人分のワクチンを予定しているということですので、状況を見ながら、焦らず、でも確実に接種しましょう。
もしかするとインフルエンザは流行らない?
この一方で、もしかするとインフルエンザは流行らないのではないか、という予想もあります。
新型コロナとインフルエンザはヒトからヒトへのうつり方がよく似ています。どちらも、症状を出している患者からの飛沫を直接吸い込む(飛沫感染)、あるいはそういった飛沫が机やドアノブについていてそこに触った手を洗ったり消毒しないまま自分の鼻や口の粘膜に触ってしまう(接触感染)、この2つの感染ルートがメインです。
このため、マスク着用や手洗い、3密を避けるなどの徹底的な新型コロナ対策が、インフルエンザの流行も抑制するのではないか、というのです。実際オーストラリアでは毎年7月ごろ(南半球ではその頃が冬です)インフルエンザが流行るのですが、今年に限ってはほぼ無視できる程度の流行でした。
この辺りのバランスがどうなるかがわからないというのが私見です。
東京の場合「東京都感染症情報センターのページ」で毎週のインフルエンザの流行情報がチェックできるので定期的に確認しましょう。
インフルエンザになった社員への対応策
ではインフルエンザと診断された方に対して会社としてはどうすればいいのでしょうか。学校保健法ではインフルエンザと診断されたら症状が出てから5日間つまり120時間、症状が治まってから最低2日間つまり48時間は学校に出席しないことを求めています。上記の法律に準じた休みを原則としている会社もありますが、基本的に社会人には法的なルールはありません。
この冬はインフルエンザと診断されたら実は新型コロナだったという事態なども予想されるため、理想的には「8+3ルール」を原則とすることを企業にはおすすめしています。
「8+3ルール」というのは症状が出現してから8日間、消失してから3日間は会社に出てこない(症状が軽ければテレワークは構いません)という対応策で、2020年5月の経団連のガイドラインにも又引きという形で引用されています。ただ、ほとんどの小規模な会社では8日間も従業員を休ませる余裕はないので難しいところではあります。
どのような健康施策を取っても、不十分だったり、かえって裏目に出ることはあります。産業医等と相談の上覚悟を決めて断行し、新たな科学的知見が出てきたら速やかに変更することが大切です。
ABOUT執筆者紹介
神田橋 宏治
総合内科医/血液腫瘍内科医/日本医師会認定産業医/労働衛生コンサルタント/合同会社DB-SeeD代表
東京大学医学部医学科卒。東京大学血液内科助教等を経て合同会社DB-SeeD代表。
がんを専門としつつ内科医として訪問診療まで幅広く活動しており、また産業医として幅広く活躍中。
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