タイムカードのトラブルを解説!打刻漏れした場合に残業時間は証明できる?
社会保険ワンポイントコラム
多くの職場ではタイムカードが利用されており、従業員の勤怠管理における重要な役割を担っています。この記事では、タイムカードで起こり得るトラブルを例に挙げつつ、タイムカードの重要性を解説していきます。
残業代のトラブルにはタイムカードが有効
昨今では、残業代の未払いを取り上げるニュースが増えており、現代社会において関心が高まりつつある問題といえるでしょう。
残業代を不当に支払わなければ、従業員から訴訟を起こされる可能性があるので、勤怠の管理は重要です。多くの企業では、従業員の出退勤時間を管理するためにタイムカードが利用されています。タイムカードに出勤時間と退勤時間が記録されることで、企業が従業員の正確な労働時間を把握でき、正しい賃金計算が可能になります。
タイムカードは、従業員が企業を訴訟した場合に有力な証拠になるものです。残業代未払い問題についての記事を読むと、従業員が「企業がタイムカードの開示請求に応じない」と証言している事例があります。労働者からの求めに対して、企業にタイムカードを開示する義務を課す法律はありませんが、過去には開示義務を認めた判例がありました。そのため、開示の請求があった場合は応じる必要があると考えておきましょう。
打刻漏れした時に残業時間を証明する証拠となるものは?
従業員には日々の出退勤時にタイムカードを打刻する習慣が求められますが、ついつい忘れてしまう日もあるでしょう。
打刻を忘れた場合は、正しい勤怠情報への修正が必要です。多くの企業では、労務担当者が当該従業員と出退勤時間を確認します。原則として、残業時間の立証責任は労働者側にあるので、打刻を忘れた従業員が正しい労働時間を証明する必要があります。
厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」では、適正な労働時間を把握するための原則となる2つの方法が記されています。
1つ目の方法は「使用者が、自ら現認することにより確認し、適正に記録すること」です。
従業員が退勤するタイミングに雇用者が居合わせて、時間を記録していれば、打刻漏れがあってもスムーズに残業時間を承認できるでしょう。雇用者でなくても、社内に人が多くいる時間帯であれば、従業員が出退勤したタイミングを別の従業員が見ている可能性が高いので、打刻漏れがあっても証明が簡単なケースがほとんどです。ただし、遅い時間まで一人で残業した後に打刻せずに退勤したパターンでは、根拠となる証拠がないため確認に苦労するケースもあるでしょう。
2つ目は「タイムカード、ICカード、パソコンの使用時間の記録等の客観的な記録を基礎として確認し、適正に記録すること」です。
目撃者がいない場合に残業の証拠となるのは、タイムカードや勤怠管理システムの記録ですが、打刻漏れの場合は当然それらの記録を確認できません。退勤時に居合わせた人もタイムカードの打刻もないような状況では、入館証の記録や社用のパソコンなどのメール・チャットの送受信履歴などが証拠として有効になると考えられます。
タイムカードの打刻漏れによって残業時間の確認が取れなくなり、給与計算に支障が出てしまうと、企業と従業員の間で前述のような残業代を巡るトラブルに発展することが考えられます。従業員からすると、自身の過失で打刻が漏れたことが事実であっても、実際に労働した分の残業代が支払われなければ不満が残るでしょう。しかし、企業からすれば、「実際に残業していたのかどうかがわからないのに、安易に残業代を払いたくない」という言い分があるはずです。
タイムカードが証拠にならない場合は、入館システムやメールの履歴が証拠にならないか確認してみましょう。
打刻漏れに罰金を課すと違法となる可能性あり
タイムカードの打刻漏れに罰則を課している企業もあるようです。企業には従業員の労働時間を管理することが義務付けられていますが、法律上タイムカードの使用は義務ではありません。タイムカードの打刻漏れへの罰則を規定する法律は存在しておらず、法的根拠がないため、内容次第では法律に抵触する可能性があるので注意が必要です。
労働基準法第16条の「賠償予定の禁止」では、「雇用主は労働契約の不履行に対する違約金を定めることや、損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定められています。つまり、タイムカードの打刻漏れに対する賠償額を明確に規定する労働契約は、法的な有効性が認められないと考えられるでしょう。そのため、「1回の打刻漏れにつき〇〇円の罰金を支払う」といった規則は違法となる可能性があります。
また、「打刻漏れがあった場合は遅刻や欠勤扱いにする」や「退勤時の打刻漏れは一律定時退社とみなす」といった規則もNGです。従業員から訴えられる危険性があるので、くれぐれも注意してください。
ただし、あまりにも頻繁に打刻漏れをする従業員を、減給などの懲戒処分にすることは違法とはなりません。この場合は、就業規則に「タイムカードの打刻漏れが多発する場合、懲戒処分の対象になり得る」ことを明示して、その旨を従業員に周知しておくことが求められます。
打刻漏れを減らす方法
タイムカードの打刻漏れは、企業にも従業員にもデメリットしかありません。しかし、どの企業、どの従業員にも起こり得るミスです。
そこで、打刻漏れを抑制するための施策を考えてみましょう。以下の3つが有効と考えられます。
- タイムカードのレコーダーを出入り口付近に設置する
- 押し忘れチェックの仕組み作り
- 打刻漏れが多い従業員に反省文を書いてもらう
1つ目の設置位置については、出入り口付近の目に付きやすい場所にレコーダーを設置することで、従業員がタイムカードの打刻を忘れていても、目で見て打刻の必要性を思い出す効果に期待できます。
2つ目の仕組み作りは、週ごとにタイムカードの打刻状況を確認する当番を決めて、全従業員に打刻漏れが発生していないかを確認する作業を担当してもらうといった方法が考えられます。会社全体で取り組むことで、打刻の重要性を認識してもらえますし、全員が担当する仕組みにすることで勤怠管理に対する自分ごと化が進むことに期待できるでしょう。
もし、打刻漏れが多い従業員に対して懲戒処分を検討しているのであれば、処分の前段階として、3つ目に挙げた「従業員に反省文を書いてもらう」を実施すると解決するかもしれません。反省文を書いてもらうことで、タイムカードに対する意識改革が進み、処分せずとも改善が見られる可能性があるためです。今後も共に働く従業員ですので、減給などの意欲を低下させる処分は極力避けるべきでしょう。
近年では、紙のタイムカードから、勤怠管理システムに移行してデジタルで管理する企業が増えています。タイムカードは出退勤時間を記録するだけの機能しか持ちませんが、勤怠管理システムはその他の機能も併せ持ち、労務や給与計算などの業務の負担を格段に軽減させてくれるものが多くあります。なかには、勤怠管理と給与計算の機能を連携させることで、自動で給与計算できるシステムもあるので、導入すれば一気に効率化を図れるでしょう。
デメリットとして、一般的な勤怠管理システムは導入と運用にタイムカードよりもコストがかかります。そのため、タイムカードでの運用に不満がない企業であれば、現状のままでいいかもしれません。一方、労務や給与計算の効率が悪く、課題意識を感じている経営者の方々には勤怠管理システムの導入をおすすめします。
ABOUT執筆者紹介
内田陽
金融系の制作業務を得意とする編プロ、ペロンパワークス・プロダクション所属のライター兼編集者。雑誌や書籍、Webメディアにて、コンテンツの企画から執筆までの業務に携わる。金融関連以外にも、不動産や人事労務など幅広いジャンルの制作を担当しており、取材記事の実績も多数。