24 September

免税事業者が気になるインボイス制度…簡易課税を選べば節税できる?

掲載日:2021年09月24日 /最終更新日:2022年11月29日   
税務ニュース

インボイス制度の登録申請が今年10月から始まります。多くの免税事業者の方は「どうしようか」と迷っていることでしょう。インボイスを発行するには消費税を納めなくてはならないからです。ただ、簡易課税を利用すれば少し節税できるかもしれません。

インボイスを発行するなら課税事業者にならないといけない

最初にインボイス制度の内容と条件を確認しましょう。

インボイスは「課税事業者であることの証明」

インボイス制度は「課税事業者であることを請求書や領収書で証明する制度」です。インボイスは英語で「明細付き請求書」を意味しますが、制度上は「必要事項が書かれた請求書や領収書、納品書など」を指します。税法では「適格請求書」と呼びます。

以前の記事に書いた通り、令和5年10月1日以降、請求書や領収書に必要事項すべてが書かれていないと、受け取った側は支払った分の消費税を預かり分の消費税から差し引けなくなるのです

注目すべきは①の「登録番号」です。今年の10月1日以降に申請すれば付与されますが、誰でももらえるわけではありません。

インボイスを発行できるのは登録した課税事業者だけ

登録番号を申請できるのは課税事業者だけです。免税事業者は申請できません。免税事業者がインボイスを発行するなら、まず課税事業者になる必要があります。

ただしこれは「本来の取扱い」です。免税事業者については、経過措置として特別な扱いがあります。原則、「適格請求書発行事業者の登録申請書」だけを令和5年3月31日までに提出すれば、令和5年10月1日時点で課税事業者・インボイスの登録事業者の両方になれるのです。

納税額を抑えられる?「簡易課税制度」とは

ここで心配なのが「納税」です。重い税金はもちろん、面倒な計算も気になります。ただ、簡易課税を選択すれば、負担を減らせるかもしれません。

仕入税額控除は面倒…納税が重くなることも

「簡易課税とは何か」を見る前に、消費税の計算の基本を確認しましょう。納税額は次の式で計算します。

この式の「-仕入税額」を「仕入税額控除」といいます。この仕入税額控除、本来の「本則課税」だと、なかなか厄介です。

まず「消費税がかかる支払はどれか」の確認作業が必要です。支払ったものすべてに消費税が含まれているわけではありません。給料や海外支払など、消費税のかからないものもあります。こういったものを区別し、消費税のかかる支出(課税仕入れ)だけを抽出しなくてはならないのです。

また消費税のかからない支出が大半だと「-仕入税額」の額が少なくなります。結果、赤字でも納税額が予想外に多くなることもあります。

簡易課税ならば手間を省いて節税できる

一方、簡易課税を使えば、預かり分の消費税から差し引く消費税額をシンプルに計算できます。仕入税額控除の額は、基本的に次の1行で計算すればいいのです。

なお、みなし仕入れ率は事業の種類ごとに決められています。

事業区分 みなし仕入率
第1種事業(卸売業) 90%
第2種事業(小売業、農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業に限る)) 80%
第3種事業(農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡に係る事業を除く)、鉱業、建設業、製造業、電気業、ガス業、熱供給業及び水道業) 70%
第4種事業(第1種事業、第2種事業、第3種事業、第5種事業及び第6種事業以外の事業) 60%
第5種事業(運輸通信業、金融業及び保険業、サービス業(飲食店業に該当するものを除く)) 50%
第6種事業(不動産業) 40%

簡易課税を選ぶと、本則課税での2つの悩みが解消されます。1つは「面倒な作業の解消」です。仕入分の領収書や請求書の確認作業がいらなくなります。もう1つは「節税」です。消費税のかからない支払いが大半なら、簡易課税の方が少しの納税で済むかもしれません。

売上が少ないと、課税負担は重くなりがちです。事業規模が小さいのなら、検討する余地があります。

簡易課税を使う2つの条件

ただし、誰でも簡易課税を使えるわけではありません。条件が2つあります。

1つ目は「課税売上高が5,000万円以下であること」です。この条件に当てはまる課税期間があれば、その翌々課税期間から簡易課税を選べます。個人事業主に当てはめてみましょう。次の図のようになります。

令和3年に課税売上高が5,000万円以下であれば、翌々課税期間である令和5年から簡易課税で消費税を申告・納税できるようになるわけです。ただし、これだけでは簡易課税を使えません。もう1つ、条件があります。

2つ目は「事前に簡易課税の選択の届出を行うこと」です。簡易課税で申告・納税をしたいなら、その対象とする課税期間が始まる前までに「消費税簡易課税制度選択届出書」を税務署に提出しなくてはなりません。

2つの条件をまとめると、下の図のようになります。

免税事業者はインボイスで特別扱い

なお、インボイス制度導入にあたり、簡易課税制度の選択においても経過措置があります。免税事業者が「インボイスを発行したい、でも納税は簡易課税で」と言うのならば、令和5年10月1日の属する課税期間中に「簡易課税制度選択届出書」を提出すればいいのです。

もう一度、個人事業主で考えてみましょう。次の図のように、令和5年3月31日までに「適格請求書発行事業者の登録申請書」を、令和5年10月1日から12月31日までの間に「簡易課税制度選択届出署」を出せば、令和5年10月1日から「課税事業者」「インボイスの登録事業者」「簡易課税で仕入税額控除」の3つが同時スタートとなります。

簡易課税制度を選択するときの注意点

ただしデメリットもあります。例えば「2年適用」です。

簡易課税を一度選択したら、最低2年間は簡易課税で消費税を申告・納税しないといけません。「簡易課税1回目の昨年は黒字だったけど、今年は赤字だから本則課税で計算して還付を受けよう」ということはできないのです。また、やめるなら事前に不適用の届出もしなくてはなりません。

この他、複数の事業を営んでいるなら2つのみなし仕入れ率を適用できますが、課税売上を区分していないと低い方のみなし仕入れ率で課税仕入れを計算することとなります。

簡易課税はメリットが大きい分だけ条件も厳しいのが特徴です。資金繰りや状況の変化も考えながら、慎重に判断しましょう。

ABOUT執筆者紹介

税理士 鈴木まゆ子

税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒。ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。ZUU online、マネーの達人、朝日新聞『相続会議』、KaikeiZine、納税通信などで税務・会計の記事を多数執筆。著書に『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、共著)。

 

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