フードデリバリーUberEatsなどの配達員の確定申告-本気で動き出す前に!
税務ニュース
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はじめに
突然ですが、見知らぬ土地を旅行しようと言うときに、地図やガイドブックなどが無いとどうなるでしょうか。「自分がどこにいるのか」も「どこへ行くべきか」も「どうやって移動すべきか」も分からず途方に暮れてしまうかと思われます。これは確定申告についても同じです。
では、確定申告の最終目的地はどこでしょうか。確定申告の経験が少ない方からは、「所得を計算して、所得税を算出する」との回答がとても多いです。しかし、これは半分だけ正解です。正確には、その上で「申告期限までに納める税金、または、還付される税金を算出する」が最終目的地となります。
とは言え、「所得の計算とそこから所得税を算出すること」は、確定申告における最重要ランドマークです。そこで、本稿では、このランドマークの前と後に分けて確定申告書上のどこで何を計算するのかという視点で解説します。また、本稿の位置づけとして、確定申告の詳細な解説を理解する為の大枠の知識を説明する様に努めます。
確定申告の作業工程
唐突にランドマークを設定してその前と後という話をしましたが、まずは、確定申告の作業工程をまとめておきます。確定申告には、以下の3つの段階があります(図1)。
(図1:確定申告の作業工程)
1. 「(売上)-(必要経費)」を計算する段階
いわゆる“儲け”を計算する段階です。売上の集計や領収書の集計などをして、帳簿を作成します。副業配達員であれば会社が発行した源泉徴収票を用意するのもこの段階です。
2. 「(儲け)-(個人の事情)」を計算する段階
“儲け”から医療費や扶養の有無などの“個人の事情”を差し引いて、“課税対象となる所得”を計算します。この個人の事情を「所得控除」と呼びます。
3. 「納める税金」を計算する段階
“課税対象となる所得”から所得税を計算します。ここから事前に納めた所得税を差し引いて「納める税金」を計算します。
ランドマークと最終目的地
(図2:確定申告書)
申告書上でのランドマークと最終目的地の場所を確認しましょう。いずれも、申告書右・上段・紫の「税金の計算」の中にあります。ランドマークは「課税される所得金額」と「上の30に対する税額」で(図2-注1)、最終目的地は「納める税金」または「還付される税金」です(図2-注2)。
ランドマーク~所得から所得税を計算する~
所得税の速算表(表3)
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000円 から 1,949,000円まで | 5% | 0円 |
1,950,000円 から 3,299,000円まで | 10% | 97,500円 |
3,300,000円 から 6,949,000円まで | 20% | 427,500円 |
6,950,000円 から 8,999,000円まで | 23% | 636,000円 |
9,000,000円 から 17,999,000円まで | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000円 から 39,999,000円まで | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 以上 | 45% | 4,796,000円 |
ここは、少々面倒な部分なのですが、会計ソフトの申告書作成機能などを使うと勝手に計算してくれることが多いです。手計算の方法としては所得税額速算表(表3)を使って、例えば「課税される所得金額」が300万円の場合、表の2段目に該当し、以下のように計算されます。
ランドマークの前~「課税される所得金額」を計算する段階~
解説に当たり、混乱を避けるため予防線を張ります。所得という言葉が、微妙に違う形で何種類か登場します。しかし、所得の最終値が「課税される所得金額」で、これに至るまでに何種類か中間地点があると理解すれば事足ります。言葉では混乱するので、申告書上の記入欄に注目すると、話を見失わないで済みます。
まず、「課税される所得金額」は、上で説明した通り(a)儲けを計算して、(b)個人の事情を差し引くと算出されます。申告書ではそれぞれ次の場所になります。
(b) 申告書左・下段・赤「所得から差し引かれる金額」の合計値(図2-注4)
所得の金額等~儲けを計算する~
専業配達員の所得は、事業所得と呼ばれ「営業等1」(図2-注5)に記入します。サラリーマンとの副業配達員であれば、給与所得と雑所得で「給与6」(図2-注6)と「業務8」(図2-注7)に記入します。それぞれ次の金額ですが、実際には帳簿や集計表などで計算して転記することになります。
業務8 = 売上合計 ― 必要経費合計
給与6 = 源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」
なお、申告書左・上段・緑の「収入金額等」には、売上合計や源泉徴収票の「支払金額」を対応する欄に記入します。
副業配達員は事業所得に出来ないのか問題
副業配達員は事業所得に出来ないのかという問題があります。事業所得には雑所得と比べて税制上有利な措置があるので、事業所得にしたいという主張は多いのですが、副業は原則として雑所得とされています。
現実には、「原則として」という言葉に希望を見いだして副業を事業所得として申告するケースが多かった様です。この様な申告については、判例においても国税庁の見解においても、具体的な判断基準が示されなかったこともあり、多くが放置されていました。しかし、令和4年分の確定申告からは、国税庁が具体的な基準を示しそうな潮目であり、それに依ると次の2つに当てはまる場合には雑所得として扱われます(所得税基本通達35-2改正案)。
- 配達よりも大きい所得がある。
- 配達の売上が300万円以下である。
所得から差し引かれる金額~個人の事情~
ここは所得控除と呼ばれる区分で、ご自身の状況に合わせて記入します。必要な資料は多岐にわたり、代表的なところで国民年金、国民健康保険、各種保険、配偶者の所得、医療費、ふるさと納税などとなります。ここでは注意点を挙げておきます。
まず、年末調整を受けた副業配達員の場合、年末調整で計算済なので、計算に変更が無ければ源泉徴収票の「所得控除の額の合計額」を「13から24までの計」(図2-注8)に書き写せば済みます。年末調整を受けていなければ、ご自身で記入するのですが、「基礎控除」(図2-注9)も忘れずに記入して下さい。
年末調整を受ける方で、ふるさと納税のワンストップ特例を利用している場合でも、確定申告書を提出するとリセットされるので「寄付金控除」(図2-注10)を記入しなければなりません。ここは忘れがちなのでご注意下さい。
ランドマークの後~納める税金を計算する段階~
ランドマークまで辿り着いたら、最終目的地まで突き進むことになります。一般的な配達員で住宅ローン減税などもなければ、記入箇所は「源泉徴収税額」(図2-注11)と「予定納税額」(図2-注12)のみです。源泉徴収税額には源泉徴収票の「源泉徴収税額」の金額を書き写すだけです。予定納税額は、対象者に「予定納税額の通知書」が届くので、これに従って納付した金額を記入します。
後は、計算を流してゆくわけですが、会計ソフトなどをご利用であれば通常は自動計算されます。手計算する場合にも各項目名の下に計算式があるので、その通りに電卓を叩けば済む様になっています。
最後に
確定申告の解説では、馴染みがない上に似た様な用語が飛び交い、説明すればする程難解になるという性格があります。そこで、本稿は、いざ確定申告となったときに詳細な解説を読んでもアレルギーが出ない様になって頂くことを目標としました。まずは、申告書の大まかな作りをご理解ください。
ABOUT執筆者紹介
税理士 柳下治人
柳下治人税理士事務所
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1978年埼玉県生まれ
明治学院大学経済学部 卒業
日本大学大学院経済学研究科修士課程 修了
税理士事務所勤務を経て柳下治人税理士事務所を設立
中小企業の経理、税務、経営のサポートやセミナー講師を手がけている。また、外国籍経営者やギグワーカーとも深く関わりを持ち、YouTubeにて「yagishitax税理士チャンネル」を運営し、UberEatsなどの配達員に必要な経理、申告のHowTo動画など税金にまつわる情報を公開している。
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