フードデリバリー配達員、必要経費になるかならないか?
税務ニュース
必要経費って何?
所得税の標的となる所得を計算するにあたり、配達報酬などの売上は所得を増加させ、必要経費は所得を減少させます。従って、必要経費が多いほど税金の負担は小さくなるため、納税者としては、必要経費をなるべく大きくしたいところです。しかし、何でも必要経費に算入されると税収がゼロになってしまうため、必要経費には一定のルールがあり、お金を払ったからといって闇雲に必要経費には出来ません。
フードデリバリー配達員などの個人事業主には、プライベート関連と業務関連の2種類の支出があります。これらのうち必要経費となるものは、業務関連の支出のみです。保温バックなどの配達用品や、配達に関わる交通費、駐車料金は、当然必要経費となります。他方、「事業に関わる支出は何でも必要経費になる」という噂話がありますが、必要経費のルールはそこまで緩くはありません。
事業に関わるってどういうこと?
実のところ、現状「事業と関わりがあるか否か」についての明確な基準を示すことは出来ません。その様な現状であっても、次の様に整理することは出来そうです。
必要経費になるもの
- それが無いと売上を得られない支出
- 売上を増加させる支出
必要経費にならないもの
- 業務が無くても生じる支出
- 有っても無くても業務に影響のない支出
業務が無くても生じるけど業務上必要不可欠なものは?
上の様に整理するとおおよそのケースを整理できます。例えば、配達員の身だしなみに関わる支出は、業務が無くても生じます。従って、理容・美容への支出や、プライベートでも業務でも着用する衣類を必要経費にすることは難しいです。同様に、業務が無くても食事はするものなので、飲食代を必要経費にすることは難しいです。
他方、業務が無くても生じるが業務上必要不可欠な支出が存在することも事実です。例えば、スマホの通信料がこれに当たります。ご存じの通り、スマホは現代人の必需品といえる一方、これ無しに配達依頼を受けることが出来ないので、業務上も必需品といえます。この様なケースでは、家事按分という計算により、業務に関わる部分のみを必要経費とします。
例えば、プライベート用と業務用でスマホを2台持ちされている場合には、業務用スマホの通信料が全額必要経費となります。また、1台のスマホで兼用している場合には、何らかの基準を設定して、事業用と考えられる割合を必要経費にします。設定する基準はある程度合理的であれば何でも良く、このケースでは、稼働日数を基準にして割合を計算すると良いでしょう。契約日数365日、通信料年間10万円、稼働日数200日の場合、次の算式で必要経費を割り出します。
算式:10万円 × ( 200日/365日) = 54,795円(必要経費算入額)
なお、スマホ通信料に各種サブスク料金や通販の決済が併せて請求されている場合には、それぞれ別に必要経費であるか否かを判断することになります。例えば、音楽視聴の月額料金は必要経費になりませんが、配達で使う地図アプリの月額料金は必要経費となります。
この他、自転車やバイクの減価償却費、ガソリン代、車両の整備修理代などが家事按分の対象です。これらも、稼働日数や走行距離などを基準に割合を計算します。
家賃も経費に出来るって聞いたけど?
「家賃は経費になりますか」という質問を受けることがよくあります。「家賃のうち事業に関わる部分は経費になります」とお答えするのですが、「経費になる」の部分だけが一人歩きしがちです。家賃も上で説明した家事按分の対象です。従って、「事業に関わる部分」を明らかにする必要があります。
SNSでは「家賃も30%くらいは行けるはず」などの投稿を見かけますが、家事按分では合理的な基準を用いて具体的な割合計算が必要です。家賃の場合、少々複雑で、業務に関わった面積と時間の両方を計算しなければなりません。算式にすると次の様になります。
算式:家賃 ×事業に関わった面積割合 ×事業に関わった時間割合
この「事業に関わった面積」とは、簡単に動かせる物を少々置いてある程度では不十分で、実際に何かの業務を行うのに必要とした面積や簡単には動かせない業務専用の棚などの面積となります。他方、「業に関わった時間」とは、自宅を使って行なった業務の時間です。配達員の立場からは納得しにくいのですが、配達時間は外出しているため、また、配達の合間を自宅で待機しても本を読む、TVを見る、何もしないなど業務をしていなければ「業務に関わった時間」には含まれません。
そうしますと、必要経費となる部分の家賃を計算しても節税効果がかなり少額で、計算の手間と釣り合わないケースがとても多いです。この為、手間をかける順序としては、家賃よりも先にすべきことがある可能性が高いです。例えば、車両に関する家事按分では、稼働日数を基準にするよりも、毎度メモをとり稼働走行距離を採用する方が高い節税効果となることが多いです。
食べないと体が動かないから食事代は必要経費では?
個人事業主自身の食事代は、原則として必要経費にはなりません。「食べないと体は動かない」という主張はありますが、事業をしていなくても食事はするものなので経費にするのは難しいです。ただし、例外的に必要経費となる飲食代もあります。
まず、仕事上の関係者と打合せをするための食事代が、会議費として必要経費になります。レストランや喫茶店での飲食代のほか、弁当代も含まれます。
次に、交際費に分類される飲食代が必要経費となります。交際費には、仕事上の関係者との情報交換や親睦といった広い目的の支出が含まれます。配達員でも、需要の季節変動や地域的特性についての情報交換が売上に貢献するのは当然ですので、適切に実施すべきです。ただし、「仕事の話をすれば何でも交際費になる」というのは間違いで、あくまで売上に貢献する効果が必要です。
なお、飲食代に限った話ではないのですが、1回が高額すぎるケースや、1年分の総額が高額すぎるケースは必要経費として認められないことがあります。また、帳簿や領収書に会合の相手と目的をメモして、業務上の必要性を説明できる様にしておかなければなりません。
ABOUT執筆者紹介
税理士 柳下治人
柳下治人税理士事務所
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1978年埼玉県生まれ
明治学院大学経済学部 卒業
日本大学大学院経済学研究科修士課程 修了
税理士事務所勤務を経て柳下治人税理士事務所を設立
中小企業の経理、税務、経営のサポートやセミナー講師を手がけている。また、外国籍経営者やギグワーカーとも深く関わりを持ち、YouTubeにて「yagishitax税理士チャンネル」を運営し、UberEatsなどの配達員に必要な経理、申告のHowTo動画など税金にまつわる情報を公開している。
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