08 January

今からでも間に合う「電子帳簿保存法」対策

掲載日:2024年01月08日   
税務ニュース

(1)ついに義務化された電子帳簿保存法

2年間、猶予されていた「電子取引における電子保存の義務化」が、ついに令和6年1月1日から再スタートしました。中小企業や個人事業主の中には、まだ対応できていない、何をどうすればいいのかさっぱり分からない、という人も多いのではないでしょうか。でも大丈夫。これから対策すれば、十分間に合います。

電子保存の義務化には、会社のバックヤードを効率化するという副次的な効果があります。法律で決まったことだからと、いやいや対応するのではなく、経理のDX化を進めるチャンスととらえて、前向きに取り組んではいかがでしょうか。

本記事では、今さら聞けない電子帳簿保存法の基本的なルールと、電子データ保存に向けて何から始めればよいかについてご説明したいと思います。

(2)電子帳簿保存法の超入門

電子帳簿保存法の改正で何が変わる?

会社や個人事業主等が保存しなければならない書類には、取引を記録した帳簿や、取引に関連して作成した書類、取引先から受け取った書類などがあります。以前は、これらの書類は紙で保存しなければなりませんでした。たとえばカード会社のサイトからダウンロードした明細書やメールに添付されて送られてきた請求書などは、わざわざ紙にプリントアウトしてから紙で保存する、というのが原則でした。

しかし、これは面倒だということで、電子でやり取りしたデータを紙に印刷するのをやめて、電子のまま保存しましょうというのが、今回の「電子取引データの電子保存」です。この場合、対象となるのは電子で受け取ったデータだけではありません。請求書や見積書など、こちらから発信したデータも電子保存の対象となります。

注意してほしいのは、義務化されたのは、電子取引データの部分だけということです。紙でやり取りした書類は、これまでどおり紙で保存するのが原則です。紙資料をデータ保存するかどうかは、別途、会社が任意で決めることができます。

電子帳簿保存法とは

そもそも電子帳簿保存法とはどのような法律なのでしょうか。前提として、個人事業主等や法人には、帳簿を備え付けて取引を記録し、その帳簿や取引に関連して作成したり受け取ったりした書類を7年間(法人が繰越欠損金の控除を行う場合は10年間)、保存することが義務づけられています。

電子帳簿保存法とは、個人事業主等や法人が保存すべきデータを、①自己が作成する電子帳簿の保存、②スキャナ保存、③電子取引データの電子保存の3パターンに分類し、それぞれについて電子で保存するためのルールを定めた法律のことを言います。

自己が作成する電子帳簿の保存 パソコンなどで電子的に作成した帳簿や書類をデータのまま保存する
スキャナ保存 自社が手書きで作成したり、取引先から受け取ったりした紙の書類を画像データで保存する
電子取引データの電子保存 電子でやり取りした取引情報をデータのまま保存する

「自己が作成する電子帳簿」とは、会計ソフトの入力データや貸借対照表、損益計算書、総勘定元帳、現金帳、売掛帳などが該当します。「スキャナ保存」の対象となる書類としては、手書きで作成した請求書や領収書控え、取引先から受け取った紙の請求書や領収書、見積書、納品書などでしょうか。

「電子取引データ」は、電子メール本文に記載された見積書や請求書、メールの添付ファイル、インターネットサイトからダウンロードした銀行取引明細、カード明細、EDIシステムを使ってやり取りした納品書や発注書など、多岐に渡ります。

3パターンのうち、令和6年1月1日から義務化されたのは、③の部分になります。①と②は、電子データだけでなく、自社が作成した帳簿類や決算書、紙でやり取りしたすべての書類を電子で保存しようというもので、会社が任意で選択できるものです。

(3)保存すべき電子データを洗い出す

インボイス制度でダウンロードデータが増えた!?

うちの会社は、請求書も見積書も紙でやり取りしているから、電子帳簿保存法は関係ない、と思っている方は要注意です。いまの時代、Amazonで買い物をしたり、Suicaを使って電車に乗ったりなど、ふと気づくと電子取引は私たちの日常にあふれています。

いやいや、うちは絶対に電子取引は行わない、と固く心に決めている強者社長もいらっしゃるかもしれません。しかし令和5年10月1日にインボイス制度が始まってから、そういう訳にはいかなくなっているのです。

消費税の世界では、自社が受け取った消費税から支払った消費税を差引いて、納付すべき税額を計算します。支払った消費税を差引くことを「仕入税額控除」といい、「消費税を支払った」ことを証明する書類が、「インボイス」です。インボイス制度のもとでは、支払いの相手方からインボイスを取得し保存しなければ、仕入税額控除を受けることができません。つまりインボイスを保存しておかなければ、その分だけ消費税の納税額が増えてしまうのです。

ここでのポイントは、取引の相手方が課税事業者ならば無条件に仕入税額控除できる訳ではない、という点です。仕入税額控除の可否は、相手先が課税事業者か免税事業者かではなく、自社がインボイスを取得し保存しているかどうかで決まります。

たとえば東京電力のように支払い先が明らかに課税事業者で、かつインボイスを取得している会社であっても、仕入税額控除を受けるためには、自社がインボイスを取得し保存しておかなければなりません。東京電力からインボイスを取得するためには、ビジネスTEPCOの会員やくらしTEPCO Webの会員になってアカウントにログインしたり、Web検針票をダウンロードしたりするなどの必要があります。

NTT東日本や東京ガスなどでも、同じようにそれぞれの会社のWEBサイトからインボイスをダウンロードする運用になっています。これらダウンロードしたインボイスは、当然ながら電子取引データに該当します。つまり、今や電子取引を行っていない会社や個人事業主等は存在しない、と言っても過言ではないのです。

電子取引データの例

電子データの保存方法を検討する前に、まず自社内で取り扱っている電子取引データの洗い出しを行いましょう。電子取引データに該当する例としては、次のようなものが考えられます。

①電子メールやチャットワークなどを使って、PDFファイルを送受信した場合 ②ペーパーレスFAXを使って、PDFファイルを送受信した場合 ③一般に出回っている請求書発行クラウドサービスを利用した場合
④AmazonなどのECサイトを利用した場合 ⑤クレジットカードの利用明細などをダウンロードした場合 ⑥ネットバンキングの入出金明細など
⑦Suicaなどキャッシュレス決済の利用明細書 ⑧電子データ交換システム(EDI)を利用した場合 ⑨USBメモリーを使ってデータをやり取りした場合

(4)電子データ保存のルールを押さえておこう

次に、自社にあった電子データの保存方法を検討しましょう。電子保存といっても、単にパソコンやサーバーに保存しておけばよいというものではありません。皆さんの会社でも紙の書類を保存する際には、取引年月日順にファイリングしたり、取引先ごとにまとめたりなど、必要な書類がすぐに探せるよう工夫されていることと思います。電子データも考え方は同じです。ただし電子データは、紙の書類に比べて改ざんがしやすいため、保存のルールがよりきびしく定められているのです。

電子取引データの保存に関して、会社や個人事業主等に求められる要件は次の2つです。

⑴ 改ざん防止の措置が取られているか
⑵ 「日付・金額・取引先名」で検索できるか

それぞれ詳しくみていきましょう。

改ざん防止の措置が取られているか

改ざん防止のための措置には、次の4つの方法があります。

①すでにタイムスタンプが付された状態でデータを受け取る
②データを受取った後「速やかに」、あるいは「業務の処理に係る通常の期間を経過した後、速やかに」タイムスタンプを付与する
③データの訂正や削除ができないか、または記録されるシステムを利用する。
④「データの訂正・削除に関する事務処理規程」を作成し、運用する。

電子取引データを大量に取り扱う会社や、スキャナ保存も併せて選択する可能性がある企業は、費用はかかりますが、タイムスタンプの導入を検討するとよいかもしれません。

「データの訂正や削除ができないか、または記録されるシステム」とは、いわゆるクラウドサービスが想定されています。巷にはたくさんの商品が出回っているので、使い勝手のよいクラウドサービスを選んで導入するのも選択肢の1つです。
または会社の規模が小さく、取り扱う電子データのボリュームが少ない場合は、費用のかからない「データの訂正・削除に関する事務処理規程」を作成して、運用する方法がお勧めです。改ざん防止のための事務処理規程のサンプルは、国税庁のウェブサイトからダウンロードできます。

「日付・金額・取引先名」で検索できるか

下記のいずれかの方法が考えられます。いずれの場合も、パソコンやディスプレイ、プリンターなどを備え付けておく必要があります。

①取引年月日・取引金額・取引先名で検索でき、かつ次の条件の両方を満たすシステムを利用する。
イ)日付または金額の範囲を指定して検索できる
ロ)日付・金額・取引先のうち2つ以上を組み合わせて検索できる            

②表計算ソフトを使って、日付・金額・取引先ごとの検索簿を作成する(注)。  

③PDFなどのファイル名に、「日付・金額・取引先」を規則的に入力し、特定のフォルダに集約して保存しておく(注)。

②や③と、前記「データの訂正・削除に関する事務処理規程」を組み合わせれば、システム導入のための追加コストをかけずに対応することができます。検索簿のサンプルは、国税庁ウェブサイトに掲載されているので参考にしてください。

取り扱う電子データのボリュームが多い会社では、表計算ソフトを作成したり、PDFデータのファイル名をその都度変更するのは、かなりの手間と工数がかかります。その場合は、電子帳簿保存法の要件を満たす専用システムの導入を検討するとよいでしょう。
なお、下記のいずれかに該当する場合(注)は、検索要件は不要となっています。

イ)2期前の売上高が5,000万円以下の場合
ロ)電子取引データをプリントアウトした書面を、取引年月日その他の日付、及び取引先ごとに整理された状態で提示・提出することができるようにしている場合

(注)いずれの場合も、税務調査の際には電子取引データの「ダウンロードの求め」(調査担当者に取引データのコピーを提供すること)に応じることができるようにしていることが条件。

(5)猶予措置を活用しよう

ここまで読んで、電子帳簿保存法をルールどおりに運用するのは無理・・と暗い気持ちになった方もいらっしゃるかもしれません。でもご安心ください。改ざん防止や検索機能などの要件に、とても対応できそうもないという会社のために、「猶予措置」が設けられています。

猶予措置とは、税務調査の際に電子取引データの「ダウンロードの求め」およびその電子取引データをプリントアウトした書面の提示・提出の求めにそれぞれ応じることができるようにしていれば、(4)の「原則的な保存要件」は不要というものです。

この猶予措置の適用を受けるためには、原則的な方法に対応できないことについて、「相当の理由」があると認められることが条件です。「相当な理由」とは、システムの整備が間に合わない、人手が足りなくて社内のワークフローを整える余裕がない、資金繰りが苦しくてシステムの導入が難しいなどがあげられます。原則的なルールにしたがって保存するための環境が整っている会社は「相当な理由がある」とは認められないため、全ての会社が対象となるわけではありません。

また、電子取引データのデータ保存そのものが不要になったわけではないので、注意が必要です。とくにダウンロードには期限のあるものが多く、いざ税務調査となってからあわててダウンロードしようとしても期限切れで出来ない・・という事態にならないよう、こまめに保存しておくことが大切です。

ABOUT執筆者紹介

税理士 原尚美

税理士法人 Right Hand Associates 代表社員
Japan Outsourcing Service Co. Ltd..,(ヤンゴン事務所) 代表取締役

東京外国語大学卒業。TACの全日本答練「法人税法」「財務諸表論」を全国1位で税理士試験に合格。直後に出産するも、育児と両立させるため、一日3時間だけの会計事務所をスタート。現在は、60名規模(ヤンゴン事務所含む)の会計事務所に成長。税務のみならず事業計画書の作成や資金調達など地に足のついた経営支援を通じて、中小企業から上場企業の子会社まで幅広くサポートしている。ミャンマーに現地法人を設立し、中小企業の海外進出も支援している。

出版実績

「51の質問に答えるだけですぐできる事業計画書のつくり方」
「フリーランスがインボイスで損をしない本」いずれも日本実業出版
「人事・経理・労務の仕事が全部できる本」ソーテック社
「マンガでわかる管理会計」オーム社
「創業融資と補助金を引き出す本」ソーテック社刊

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