05 April

NFTアートと税金[第2回]:アートNFTを売却した場合は美術品と同様に非課税?デジタルアートの税金のルールについて考える。

掲載日:2023年04月05日   
税務ニュース

NFTの税金に関する課税庁のFAQが公表

令和5年1月31日、国税庁から「NFTに関する税務上の取扱いについて」というFAQが公表されました。そこでは、NFT(Non-Fungible-Token:非代替性トークン)に関する税金の一般的な取扱いが、質疑応答形式でまとめられています。

本コラムでは、デジタルアート関連のNFT取引における税金の取扱いを概説するとともに、アートに関連するNFT取引に美術品の非課税規定が使えるかどうか、私見を交えて解説します。

なお、本コラムでは、「デジタルアート作品そのもの」と「デジタルアート作品に紐づけられたNFT」を区別してとらえ、後者を「アートNFT」と称して説明しています。

 

アートNFTの税金は流通段階で取扱いが異なる

クリエイターがNFTを販売するケース(1次流通)

クリエイターがデジタルアート作品を制作し、NFT化してマーケットプレイスで販売した場合、その「もうけ」は原則として「雑所得」に該当します。

この場合の雑所得の金額は、以下の算式で計算します。

NFTの販売に係る雑所得 = NFTの譲渡収入 - NFTに係る必要経費

上記算式の「NFTの譲渡収入」は、対価として得るトークンの時価が原則です。「NFTに係る必要経費」は、NFTの譲渡収入を得るために必要な売上原価の額と、販売費及び一般管理費の額です。ただし、アートNFTの場合、売上原価はそのNFTを組成するために要した費用の額であり、デジタルアートの制作費は含まれません。

特徴的なのは、FAQでは、NFT取引が「1次流通」の段階である場合、「権利の設定」という側面から整理されている点です。国税庁はこれを「『デジタルアートの閲覧に関する権利』の『設定』」と説明しており、「デジタルアート作品そのもの」と「デジタルアート作品に紐づけられたNFT」を区別していると考えられます。この点については、著者の過去のコラムも参照してください。

購入したNFTを転売するケース(2次流通)

クリエイターからアートNFTを購入した一般の人がそれを第三者に転売した場合、その「もうけ」は原則として「譲渡所得」に該当します。これは「『デジタルアートの閲覧に関する権利』の『譲渡』」にあたるためです。

この場合の譲渡所得の金額は、以下の算式で計算します。

NFTの転売に係る譲渡所得 = NFTの転売収入 - NFTの取得費 - NFTの譲渡費用 - 特別控除額

上記算式の「NFTの転売収入」は、対価として得るトークンの時価が原則です。「NFTの取得費」は、そのNFTの購入代価と購入の際に要した費用の合計額です。「NFTの譲渡費用」は、譲渡に要した費用の額をいいます。総合課税の譲渡所得の特別控除の額は50万円です。

営利を目的としているケース

他方、アートNFTの販売・転売などが、営利を目的として、事業的な規模で反復継続的に行われている場合には、NFTの販売・転売の「もうけ」は事業所得(転売の場合は事業所得または雑所得)に該当する可能性があります。営利目的で継続的にNFTを譲渡しているかどうかは、NFTの取引回数、取引数量、取引金額などを総合的に考慮して検討します。

 

美術品等の非課税規定

美術品等30万円以下は非課税

さて、絵画などの実物の美術品には所得税法上の特別な規定があり、美術品等を譲渡した場合に譲渡所得が非課税になる可能性があります。この規定は、デジタル資産であるアートに関連したNFT取引の場合にも適用され得るのでしょうか?

美術品等(貴金属、宝石、書画、骨董、美術工芸品など)で1個または1組の価額が30万円以下のものは、「生活に必要な動産」として取り扱われ、美術品等の譲渡による「もうけ(譲渡益)」は非課税になります。その裏返しとして、美術品等の譲渡の結果が「赤字(譲渡損)」でも、その「赤字」はなかったものとみなされます。これが美術品等を譲渡した場合の非課税規定です。ただし、アート販売業など、事業として美術品等の売買を行なっている場合はこのルールの適用対象外です。

このルールをよくみてみると、非課税の対象は「動産」つまり有体物の譲渡に限定されていることがわかります。したがって、デジタルアート作品をNFT化して「デジタルアートの閲覧に関する権利」を譲渡した場合は、美術品等と同じくアート作品を譲渡したという側面は認められるものの、無体物の譲渡に該当するため、このルールの適用対象外であると考えられます。

この点について、国税庁から明確な見解は示されていませんが、美術品等の非課税規定が定められた趣旨や経緯を踏まえ、またFAQ上でも言及されていない点にも鑑みれば、美術品等の非課税規定をNFT取引に適用するのは難しいのではないかと考えられます。

美術品等の非課税規定が適用されない場合

そのほか注意すべきは、この美術品等の非課税規定が適用されない美術品(つまり、1個または1組の価額が30万円を超える美術品等)の譲渡については、「赤字」自体は発生する可能性はあるものの、他の所得との相殺(これを「損益通算」といいます)が制限されている点です。

つまり、30万円超の美術品等を譲渡し、その結果として譲渡損が生じた場合、本来であれば損益通算が可能であるはずです。しかし、30万円超の美術品等の「生活に通常必要でない資産」については、総合譲渡所得内の損益を通算できるのみであり、その結果生じたマイナスはなかったこととされ、他の所得との損益通算は認められません。

ここに「生活に通常必要でない資産」とは、「1個または1組の価額が30万円を超える美術品等の動産」のほか、「主として趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的で保有する資産」などが該当します。アートNFTを転売した場合は、美術品と同様に総合譲渡所得に該当しますが、NFTは「趣味、娯楽、保養又は鑑賞の目的」で保有することが多いため、注意が必要です。

 

未だ不明確な点も多い国税庁のFAQ

本コラムでは、アートNFT取引における税務上の取扱いの概要を説明するとともに、アートNFTの譲渡に美術品等の非課税規定が使えるかについて、私見を交えて解説しました。美術品等の非課税規定は、アートに関連するNFT取引には適用できないと考えられます。

また、NFTに関する国税庁の説明は明確でない部分も多いのが事実です。たとえば、NFT取引に係る雑所得が「業務に係る雑所得(副業などで得た雑所得)」に該当するのか、それとも「その他の雑所得(暗号資産取引に係る雑所得)」に該当するのか、FAQでは判然としません。

FAQには「この情報は、一般的な取扱いを回答したものであり、納税者の方々が行う具体的な取引等については、この回答と異なる取扱いとなる場合があることにご注意ください。」と記載されています。専門家や税務署に相談するのがおすすめです。

(免責事項)本コラムの内容は、投稿時点での税法、会計基準、会社法その他の法令等に基づき記載しています。また、読者が理解しやすいように、原則的な取扱いを簡略化して説明しています。本コラムの情報に基づいて実務や判断を行う場合には、専門家・税務署に相談、または十分に内容を検討のうえ実行してください。本情報の利用により損害が発生することがあっても、当事務所は一切責任を負いかねます。なお、当事務所では本コラムに関する個別のご質問は受け付けておりません。予めご了承ください。
ABOUT執筆者紹介

税理士 武田紀仁

たけだ税理士事務所

クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。

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