個人事業主も活用したいクラウドファンディングのしくみと税金[第3回]:購入型クラウドファンディングに係る税金②
税務ニュース
近年、フリーランスや個人事業主も活用できる資金調達手段として注目されているクラウドファンディング。何回かの連載で、フリーランスや個人事業主が知っておきたいクラウドファンディングのしくみと税金について解説します。第3回では、購入型クラウドファンディングを実施するうえで知っておきたい節税対策や必要経費にスポットをあててみましょう。
購入型クラウドファンディングに係る税金
購入型クラウドファンディングで集めた資金に対しては、資金調達者が事業者であれば事業所得、それ以外の場合には雑所得として、所得税および住民税が課税されます。
購入型クラウドファンディングにおいては、「資金調達者を支援する」というかたちをとっているため「支援」や「応援」といった言葉が使われていますが、その実態は事業者が行う通常の売買取引と同じです。資金調達者はリターンという名目で商品やサービスを提供し、資金提供者は支援金という名目でその対価を支払っているにすぎません。そのため、資金調達者が事業を営んでいる場合、資金調達者が資金提供者から受け取った資金は、事業所得として所得税および住民税の課税対象となるのです。
なお、クラウドファンディングに係る税金は、資金調達者を取り巻く状況によってさまざまです。くわしくは前回の記事で紹介しています。
さて、資金提供者から支援金として受け取った資金を有効活用するためには、節税方法について検討したり、必要経費を正しく計上することも重要です。以下では、購入型クラウドファンディングを実施するうえで知っておきたい節税方法や必要経費の基本について解説します。
青色申告を活用する
購入型クラウドファンディングで集めた資金にかかる税金については、青色申告の特典の一つである「青色申告特別控除」を活用することで大きな節税効果を期待できる場合があります。そのため、事業を営んでいる資金調達者は、確定申告にあたって青色申告を適用できるように、「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」と「所得税の青色申告承認申請書」を期限内に税務署に提出しておくとよいでしょう。
青色申告の代表的なメリットは以下の図表1のとおりです。この特典の中で特に高い節税効果を期待できる「青色申告特別控除」については、最大65万円の控除が認められています。
(図表1)青色申告の代表的なメリット
メリット① | 青色申告特別控除(最大65万円) | 支出なしでその年の税金を安く |
---|---|---|
メリット② | 純損失(赤字)の繰越し・繰戻し | 将来の税金を安く、または前年の税金を取り戻す |
メリット③ | 青色事業専従者給与の必要経費算入 | 家族に給与を払って経費に |
メリット④ | 少額減価償却資産の特例 | 30万円未満の支出を一度に経費に |
国税庁の例によれば、事業の利益(もうけ)が600万円だった場合、青色申告特別控除(65万円控除)を適用したときは、白色申告の場合に比べて197,800円の節税効果があると説明されています(所得税・住民税・事業税を合計した税負担額)(下図)。
(単位:円)
白色申告の場合 | 青色申告の場合 | ||
---|---|---|---|
青色申告特別控除 | 650,000 | 100,000 | |
事業の利益(もうけ) | 6,000,000 | 6,000,000 | 6,000,000 |
事業所得 | 6,000,000 | 5,350,000 | 5,900,000 |
税負担(所得税、復興特別所得税、住民税及び事業税の合計) | 1,128,700 | 930,900 | 1,098,200 |
節税効果(白色申告の場合と比較) | – | 197,800 | 30,500 |
ただし、青色申告は節税効果が大きい特典を利用することができる代わりにデメリットも存在するため注意が必要です。青色申告のメリット・デメリットについては、以下の記事でくわしく紹介しています。
必要経費を正しく申告する
クラウドファンディングで獲得した資金の節税と有効活用を目指すなら、必要経費を正しく計上することも重要です。
個人事業主やフリーランスなどの事業者は、「所得 = 収入マイナス経費」という計算式で算出された「所得」に税金がかかります。たとえば、事業者が購入型クラウドファンディングで資金調達した場合には、収入(集まった資金)から経費を差し引いたあとの金額をベースに、そこからさらに青色申告特別控除(青色申告を利用している場合)を差し引いた事業所得の金額に対して課税されることになるのです。
ここで「経費」とは、一般的に「ある事をするのに必要な費用」(広辞苑第7版)をいいますが、資金調達者にとっての「経費」は「収入(資金)を得るために必要な費用」を意味します。税金のルールでは、①クラウドファンディングのプロジェクトとの関連性があり、②クラウドファンディングを活用して資金調達するうえで必要な費用である、という2つの条件を満たせば必要経費となります。
クラウドファンディングに係る必要経費としてはどんなものがあるでしょうか。
たとえば、クラウドファンディングサイトの事業者に支払った手数料、インターネット利用料、活動報告にかかった通信費、クラウドファンディングに従事したスタッフの人件費などが該当します。また、商品やサービスをリターンとして資金提供者に提供するための費用、たとえばリターンの仕入れ原価、材料代、発送代、制作費、制作にあたって使用した機械等の減価償却費などが該当します。これらの費用は、事業所得の計算上、必要経費に算入することができます。
ただし、関係のない費用まで計上してしまうと税務署から指摘が入り、ペナルティを受けるおそれもあります。あくまで前述した2つの条件を満たす必要経費のみを計上し、正しく節税するよう心がけましょう。ペナルティについて、くわしくは以下の記事でも紹介しています。
申告が不要な範囲内に抑える
多額の資金を必要としていない場合や節税しながら資金調達することを重視したい場合には、所得税や贈与税などの確定申告が不要な範囲内で資金を集めるという選択肢も考えられます。
所得税などの税金には「基礎控除」などの控除額や申告が不要となる金額があり、資金調達によって獲得した金額が一定の金額までであれば税金はかからないか、または確定申告は不要になる場合があります。
この控除額や申告が不要となる金額は、クラウドファンディングで集めた資金にどのような種類の税金がかかるのか、事業者か給与所得者か、またはどのような届出を出しているかなど、各人の状況により異なります。たとえば前回の記事で解説したように、「20万円までは非課税」と誤解しているケースも多く見受けられるため、その判断には十分に注意が必要です。実は申告が必要だったのに、誤った判断で無申告になってしまったら余計な税金を払うことにもなりかねません。
専門家などに相談し、クラウドファンディングにより調達した資金に対して税金がかからない範囲や申告不要になる範囲を、事前に確認しておくと良いでしょう。
ABOUT執筆者紹介
税理士 武田紀仁
クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。