事前確定届出給与の節税リスク
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事前確定届出給与とは
通常、役員に対する賞与は経費になりませんが、それが事前確定届出給与に該当すれば、適正額の範囲内において、特例として経費として認められます。事前確定届出給与は役員に対する賞与のうち、支給時期・支給金額を事前に確定させた上で、これらの事項を所定の期日までに税務署に届け出て、その定めの通りに支給するものをいいます。
事前確定届出給与については、届け出た支給時期に、届け出た支給金額をそのまま支給する必要があります。このため、ケアレスミスに非常に厳しい制度です。2800万支給すると届け出たにもかかわらず、2500万支給してしまった事例について、この全額が経費として認められなかった事例もあります。
役員ごとの判断
その一方で、届け出た通りに支給されたかどうか、その判断は役員ごとに見ることになっています。例えば、役員がAとBの2人いる場合、Aについては届け出た通りに支給したものの、Bについては賞与を支給しなかった場合、Bは支給していないので経費になる金額は0になりますが、Aに支給した役員賞与は事前確定届出給与として認められます。この点を踏まえ、使い方によっては大きな法人税の節税が可能になると言われています。
具体的には、複数の役員について事前確定届出給与の届出を出します。その上で、利益状況や資金繰りを見ながら、全員に支給できる場合には支給をし、それが難しい場合には支給する役員を絞って、できる範囲内で支給をするのです。
具体例を示すと、4人の役員に300万の賞与を支給する事前確定届出給与の届出をしておき、当期の利益見込みが賞与抜きで600万と算定されれば、このうち2人だけ支給すれば利益はゼロにできます。こうすることで、資金繰り上無理のない範囲で効果的に法人税を節税できます。
否認リスクはどうか
このスキームについて、実際、税務署から問題視されたという話は聞いたことがありません。しかし、問題視されうる点として考えられることとしては、本スキームは会社の状況によって支給有無を決めるというものですから、予め支給時期・支給金額が確定した賞与とは言えないという点です。
確かに、事前確定しているかどうか、その判断は役員ごととされていますが、少なくとも届け出るタイミングにおいては、届出通りに支給することが確定しておかなければならないはずです。このスキームは、利益状況などによって柔軟に賞与の支給を決めるというものですから、届け出るタイミングでは支給が確定しているとは言えません。
実際、事前確定届出給与の趣旨としても、柔軟に賞与を支給できるなら、いくらでも法人税を節税できることを問題にしたために、事前に届け出ることを要件としています。そうなると、事前確定届出給与の趣旨からして問題があり、予め確定していない賞与であることから要件を満たさないとして、問題視されることはあり得ると考えられます。
対策としては
その反面、税務署にとっても、上記のような理屈で事前確定届出給与に当たらないと指摘することは非常に難しいことも事実です。なぜなら、事前確定届出給与の届出を行うタイミングでは実際に支給する意図はあった、と抗弁された場合、それは会社の内心の問題だからです。内心の問題である以上、その立証が困難ですから、税務調査においては税務署と交渉の余地は大きいと考えます。
なお、納税者の内心が問題になる場合、税務調査ではメールやLINEなどの記録が根拠となることが通例です。電子取引が普及し、電子取引の電子保存の義務化がスタートした昨今、会社のパソコンは当然に確認される資料になっていますので、この点も注意が必要になります。
ABOUT執筆者紹介
元国税調査官・税理士 松嶋洋
昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。
著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。