創業融資を上手に引き出す3つの方法
税務ニュース
金融機関から融資を受けるためには、3期分の決算書の提示を求められますが、創業間もない会社は、見せるべき決算書がありません。かといって自己資金だけで必要資金をまかなうのは大変です。今回は起業したばかりの会社が、成長路線に乗るために、創業融資を上手に引き出す方法をお伝えします。
1.起業をはばむ資金不足
事業化のアイデアはあっても、実際に起業までこぎつけることができない最大の理由は、「資金不足」です。資金調達の方法としては、金融機関からの融資の他に、ベンチャーキャピタルなど第三者からの出資、親戚や家族からの借入などが考えられます。
しかし残念ながらわが国では、まだ海のものとも山のものともわからないベンチャー企業に投資をするという文化が根づいていません。ベンチャーキャピタルが出資をする会社というのは、近い将来上場を目指すというような会社にかぎられています。また誰もが、いつ返済されるかアテのない多額の資金をぽんと貸してくれる家族に恵まれているわけではありません。そのため、わが国では大多数の中小企業が金融機関からの借入で必要資金を調達しているのが現状です。
ここでひとつ問題があります。起業したばかりの小さな会社は、まだ実績も信用力もないので、銀行から融資を受けるのが困難だということです。特に都市銀行などの大手銀行では、まだ1度も決算を迎えたことのない起業したての会社の評価をどのようにすべきか、そもそもノウハウを持っていないのが実情です。
そこで国や地方自治体が行う「創業時の融資制度」の出番です。創業したばかりで資金力のない会社が、これを利用しない手はありません。創業時の融資制度には、次の2つがあります。
① 日本政策金融公庫から借りる
日本政策金融公庫とは「株式の100%を政府が出資している政府系の金融機関」をいいます。銀行など一般の金融機関を補完し、とくに開業資金など民間銀行からの融資が困難な場合に、強い味方となってくれます。日本政策金融公庫は、信用も実績もない会社に対しても、何とか融資をしたいという姿勢で接してくれる、創業融資に最も積極的な金融機関なのです。
たとえば日本政策金融公庫には、無担保無保証で借りられる「新創業融資制度」があり、創業したばかりで、事業の実績も自己資金も乏しいという人にお勧めです。ただし、その分金利などは若干高めに設定されているので、返済計画はより慎重に考える必要があります。
➁ 地方自治体の制度融資を利用する
制度融資とは「都道府県や市区町村などの地方自治体と信用保証協会、銀行など金融機関の三者が協力して公的資金を貸し出す仕組み」のことをいいます。とはいっても、地方自治体が直接、皆さんの会社に融資するわけではありません。地方自治体ごとに設置されている「信用保証協会」が融資を受けたい会社の信用を保証することで、中小企業の融資を受けやすくする制度というわけです。
2.融資申し込みの3種の神器
融資申し込みの3種の神器は、「創業計画書」と「自己資金」、そして「社長面接」です。金融機関から融資を受けるためには、融資を受けたい金額やその使い途などを記入し、「借入申込書」に、「創業計画書」を添付して申し込みます。金融機関は提出された書類に基づいて審査をし、融資の可否を決定することになります。
創業計画書には、必要な資金と自力で用意できる自己資金の金額、不足額については借入で賄いたい旨を記載することになります。その際、提出された創業計画書の内容を確認するために、さらに追加の書面の提出を求められることもあります。たとえば、自己資金として記載されている金額の出所を確認するために、個人の預金通帳の提示を求められたり、活動場所として記載されている事務所や店舗に実態があるかを確認するために、賃貸契約書の写しを請求されることもあります。必要とあれば、担当者が実際に現地に出向き、お店や事務所の周辺環境などの調査を行います。
そのほか、購入を予定している資産の見積書や、売上の見込みを確認するための書類、たとえば見込み客から届いている発注書など、創業計画書を裏付けるあらゆる書類の提出が求められます。
そのうえで、経営者の人となりを確認するために、社長面接が行われます。金融機関はこれらを総合的に判断して、その会社が融資してもよい相手か、申込金額の全額を貸し出せるか、保証人や担保を請求すべきか、何年間で返済してもらえそうか、金利はいくらに設定すべきかなど、融資の可否と融資の条件を決定することになります。
それでは3種の神器について、具体的にみていきましょう。
3.魅力的な創業計画書を作成するコツとは
① 創業計画書は会社を評価するものさし
金融機関にとって、起業したばかりの会社に融資をするということは、言ってみれば一か八かの博打のようなものです。そのビジネスが成功するという保証も、貸したお金が返ってくるという保証も、何ひとつありません。金融機関は、創業計画書を分析して、その事業の収益性や成長性、実現可能性を判断し、どの程度の資金が必要で、回収は可能なのかを検討するしかないのです。
つまりこれは、その事業が成功できる可能性について、金融機関がコンサルティングをしてくれているのと同じ意味合いを持ちます。なんと言っても、創業資金を融資してくれる金融機関は、会社にとって最初の支援者です。支援者からの共感が得られるような魅力的な創業計画書をつくれるかどうかは、そのビジネスの成功を占う最初の試金石といっても過言ではありません。
➁ お客様にも、社内外の人にも、共感を得られる創業計画書にする
創業計画書は金融機関のためにだけつくる訳ではありません。創業計画書をつくって紙に残しておけば、起業にかける思いを「見える化」する効果があります。
創業計画書には、下記の要素を意識して折り込みましょう。
- そのビジネスがターゲットにしているお客様が誰か
- なぜそのビジネスを選んだのか、そのビジネスが目指しているゴールはどこか
- どのようにして、目標を達成していくのか
- なぜ、そのビジネスは成功するのか
これらのメッセージを、文章や図表、数字を使って、書面におとし、その事業に関係するすべての人に、同じ思い、同じ情報を共有するために作成されるのが創業計画書です。
どんなに小さなビジネスでも、社長1人だけで事業を遂行することはできません。事業に関係する人といえば、何といってもそのビジネスにお金を払ってくれるお客様です。もちろんお客様が創業計画書に実際に目を通すことはあり得ませんが、お客様は商品やサービスを通して事業計画を共有する仲間です。どんなに優れたアイデアでも、お客様の視点を無視して考えられた事業計画が成功するはずはありません。創業計画書を作成して、独りよがりのビジネスプランになっていないか検討することが大切です。
同時に、会社の株主や役員、従業員にも、事業プランを理解してもらわなければなりません。創業計画書をつくる過程で、全社員が社長の想いを共有することで、いま自分たちがどこにいて、これからどこに向かっていくのかを理解することができるというわけです。
もちろん新規事業には大きなリスクが伴います。あらかじめその事業に内在するリスクを洗い出し、従業員の共通認識として把握しておくことは、困難やリスクを乗り越えるためにも大きな意義があります。
4.自己資金は決意の表われ
① 会社は0円では動かない
法律上は資本金0円でも会社を登記できますが、現実問題として自己資金0円では会社を運営していくことができません。会社を設立するだけでも、30万円程度の費用がかかるからです。小さく始めて大きく育てるのは、起業の考え方として間違ってはいませんが、元手がなければ事業を動かすことはできません。日本では信用取引といって、商品を納めたり、サービスを提供してから、請求書を発行するのが一般的です。請求書を発行してから、売上金が入金されるまで、45日から75日程度の日数がかかるのは珍しくありません。創業時には、まずその間の運転資金を用意しておく必要があります。
また業種によっては、事務所や店舗を構えたり、インターネット上にサイトを作成したり、開業のための設備資金も必要です。これらの運転資金や設備資金を、すべて借入金でまかなうという考え方では、とうてい融資を受けることはできません。金融機関は、あなたが自力でどれだけの自己資金を用意しているかで、そのビジネスにかけるあなたの本気度を測っているからです。
➁ 自己資金とは
ここでいう自己資金とは、資本金のことではありません。融資の現場では、返済不要の資金のことを自己資金といいます。自己資金には、お給料の中からコツコツ貯めた貯蓄はもちろん、ベンチャーキャピタルなど金融機関からの出資や身内や友人など非金融機関からの出資、公的機関からの助成金や補助金も含まれます。また両親などから贈与してもらったお金も、自己資金として考えてかまいません。これらは、いずれもいったん入金されたら、返す必要のない資金だからです。ただし、いくら個人名義の定期預金があったとしても、事業に使う予定のないお金は自己資金としては認めてもらえないので、注意してください。
5.社長面接で聞かれること
① 希望金額とその根拠、そしてその使い途を伝える
面接で最も大切なのは、希望の借入金額とその使い途をはっきりと述べることです。
自分に自信がないと、つい「いくらなら、借りられますか」と聞きたくなってしまいます。しかし、融資金額は、金融機関がいくら融資できるかではなく、自分がいくら必要としているかによって決まります。自信を持って、希望金額とその根拠を述べましょう。何年間で返済できるのか、返済計画についても質問されます。月々の返済予定額と、どの程度の利益が見込めるかを予測し、この位なら返済できそうだという金額を考えておきます。
また金融機関は、貸した資金がどのように使われるのかについて、重大な関心を持っています。その事業と関係のないほかの事業に流用されたり、個人で持っている借金返済に充てられたりすることを最も嫌うからです。そのため、資金使途がはっきりしないと融資を受けることができません。
資金使途は、設備資金と運転資金に分けて説明します。運転資金については、なぜ資金が不足するのか、いくら不足するのかを、創業計画書をもとにその根拠を示します。設備資金については、設備の購入計画だけでなく、その事業を遂行していくうえで、なぜその設備が必要なのか、売上にどのような効果をもたらすのかについて、話すとよいでしょう。
② 人は見た目で決まる!?
金融機関にとって、貸付は利息という収入源を獲得するための大事な収益活動です。「お金を貸してもらう」のではなく、あなたは「お金を借りてくれる」お客様です。「お金を貸してくれる」銀行に対して、緊張したり、卑屈になったりする必要はありません。とくに創業融資の場合にはまだ事業の実績がないので、社長の人間性や事業に臨む態度も重要なチェックポイントになります。
金融機関の担当者にとって、あなたは初対面の相手です。面接では、社長の人柄や経済状況を把握するために、一見事業とは関係のないプライベートな質問をされる場合もあります。たとえば、これまでの職業やキャリア、その事業をはじめるに至ったきっかけ、家族構成や夫婦関係、配偶者の年収、生活費は誰が出しているのか、個人的な借金はないか、不動産を持っているかなど、かなり突っ込んだことを聞かれる可能性もあります。
面接担当者は質問した内容をもとに、審査のための稟議書を書かなければなりません。担当者は融資を断るために面接を行うのではなく、稟議が通るよう一生懸命質問してくるのだと思ってください。面接担当者と社長は、融資の成功という共通の目的に向かって力をあわせている仲間だと思って臨めば、面接もスムーズに運びます。
ABOUT執筆者紹介
税理士 原尚美
税理士法人 Right Hand Associates 代表社員
Japan Outsourcing Service Co. Ltd..,(ヤンゴン事務所) 代表取締役
東京外国語大学卒業。TACの全日本答練「法人税法」「財務諸表論」を全国1位で税理士試験に合格。直後に出産するも、育児と両立させるため、一日3時間だけの会計事務所をスタート。現在は、60名規模(ヤンゴン事務所含む)の会計事務所に成長。税務のみならず事業計画書の作成や資金調達など地に足のついた経営支援を通じて、中小企業から上場企業の子会社まで幅広くサポートしている。ミャンマーに現地法人を設立し、中小企業の海外進出も支援している。
出版実績
「51の質問に答えるだけですぐできる事業計画書のつくり方」
「フリーランスがインボイスで損をしない本」いずれも日本実業出版
「人事・経理・労務の仕事が全部できる本」ソーテック社
「マンガでわかる管理会計」オーム社
「創業融資と補助金を引き出す本」ソーテック社刊
[democracy id=”443″]