平成30年分 確定申告のチェックポイント
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いよいよ平成30年分の確定申告シーズンが近づいてきました。個人事業主やお勤めの方々にとっては年に1回の作業なので申告が初めてではない場合でも要領を覚えていない方が少なくないでしょう。
今回は所得税の確定申告の概要、誤解や間違いが多い項目、さらに平成30年分から適用される改正点のうち主なものについてご案内します。
確定申告の基本と受付期間
確定申告は、暦年の納付税額を確定させる手続きであることのほか、すでに納めている源泉徴収税額や予定納税額があればそれらを精算する手続きです。 平成30年分の申告書の受付は、平成31年2月18日(月)から同年3月15日(金)までで、曜日の関係で日数が2日間少なくなっています。ちなみに還付申告の場合は、1月から受け付けられています。
確定申告を必ずしなければならない人
1. お勤めの方
ほとんどの方は年末調整により税額が精算されているため申告が不要ですが、次のいずれかに該当する方は申告しなければなりません。
[1] 給与の収入金額が2,000万円を超える方
[2]給与を1か所から受け、かつ、その給与全部が源泉徴収の対象となる場合において、他の所得金額(給与所得,退職所得を除きます。)の合計額が20万円を超える方
[3]給与を2か所以上から受けていて、かつ、その給与の全部が源泉徴収の対象となる場合において、年末調整をされなかった給与の収入金額と各種の所得金額(給与所得、退職所得を除く。)との合計額が20万円を超える方
注 意
給与等の収入金額の合計額から所得控除の合計額(雑損控除、医療費控除、寄附金控除及び基礎控除を除く。)を差し引いた残りの金額が150万円以下で、さらに給与所得、退職所得を除くその他の所得金額の合計額が20万円以下の方は申告不要です。
[4]同族会社の役員やその親族などでその同族会社からの給与のほかに、貸付金の利子、店舗・工場などの賃貸料、機械・器具の使用料などの支払を受けた方
[5]給与について、災害減免法により源泉徴収税額の徴収猶予や還付を受けた方
[6] 在日の外国公館に勤務する方や家事使用人の方などで、給与の支払を受ける際に源泉徴収をされていない方
2. 公的年金等に係る雑所得のみの人
公的年金等に係る雑所得の金額から所得控除を差し引けば残額がある方
注 意
公的年金等の収入金額が400万円以下であり、かつ、その公的年金等の全部が源泉徴収の対象となる場合には、申告不要です。
3. 上記1.および2.以外の人
次の計算において「残額」がある方が該当します。
≪計算≫
[1]課税所得金額・・・各種所得の合計額から所得控除を差し引いた金額
[2]所得税額・・・[1]の金額に対して所得税の税率を乗じた金額
[3]残額・・・[2]の税額から配当控除額を差し引いた額
注 意
公的年金等の収入金額が400万円以下であり、かつ、その公的年金等の全部が源泉徴収の対象となる場合に、公的年金等に係る雑所得以外の所得金額が20万円以下であるときは、申告不要です。
確定申告をすれば税金が戻る人
確定申告をする必要がない方であっても、予定納税額や源泉徴収税額が納め過ぎとなっている場合には、還付を受けるための申告をして税金の還付を受けることができますので、次のような方は税金が納め過ぎになっていないかどうか確認しましょう。
[1]総合課税の配当所得や原稿料などがある方で年間の所得が一定額以下である方
[2]お勤めの方で次のいずれかに該当する方
- イ. 雑損控除、医療費控除、寄附金控除、(特定増改築等)住宅借入金等特別控除(年末調整で控除を受けている場合を除く。)、政党等寄附金特別控除、認定NPO法人等寄附金特別控除、公益社団法人等寄附金特別控除、住宅耐震改修特別控除、住宅特定改修特別税額控除、認定住宅新築等特別税額控除などを受ける方
- ロ. 年の中途で退職した後に就職しなかった方で、年末調整を受けていない方
[3]公的年金等に係る雑所得のみの方で、雑損控除、医療費控除、生命保険料控除、地震保険料控除、寄附金控除などを受ける方
[4]退職所得がある方で次のいずれかに該当する方
- イ. 退職所得を除く各種の所得の合計額から所得控除を差し引くと赤字になる方
- ロ. 退職所得の支払を受けるときに「退職所得の受給に関する申告書」を提出しなかったため、源泉徴収税額が正規の税額を超えている方
[5]予定納税をしたが確定申告をする必要がなくなった方
確定申告をすれば損失の繰越しができる人
次の方は確定申告をすれば損失の繰越しをすることができます。
1.平成30年分の所得金額が赤字の方
事業所得、不動産所得、譲渡所得、山林所得の赤字(分離課税の土地建物等に係る譲渡所得の赤字、分離課税の上場株式等の譲渡所得等の赤字、分離課税の先物取引の雑所得等の赤字などの一定の赤字を除く。)がある方で、その赤字を「他の黒字の所得」から損益通算しきれない方
注 意
分離課税の土地建物等に係る譲渡所得の黒字、分離課税の上場株式等の譲渡所得等の黒字、分離課税の上場株式等の配当所得の黒字、分離課税の先物取引の雑所得等の黒字は「他の黒字の所得」に含まれません。
2.繰越損失額を平成30年分の所得金額から控除しきれない方
平成29年までに控除しきれなかった繰越損失額(次のイからホまでの金額)がある方で、その繰越損失額を平成30年分の所得金額から控除しきれない方
ちなみに平成31年に繰り越すことのできる損失額は,平成28年以後に生じた損失額となります。
- イ. 雑損失の金額
- ロ. 青色申告をしていた年の純損失の金額
- ハ. 白色申告をしていた年の純損失の金額のうち、変動所得の損失の金額と被災事業用資産の損失の金額
- 二. 居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の金額または特定居住用財産の譲渡損失の金額
- ホ. 上場株式等に係る譲渡損失の金額、特定中小会社が発行した株式に係る譲渡損失の金額または先物取引の差金等決済に係る損失の金額
注 意
ロ.から二.までの金額は、分離課税の土地建物等に係る譲渡所得の黒字、分離課税の一般株式等の譲渡所得等の黒字、分離課税の上場株式等の譲渡所得等の黒字、分離課税の上場株式等の配当等に係る配当所得等の黒字、分離課税の先物取引の雑所得等の黒字から控除することはできません。
注 意
被災事業用資産の損失とは、商品・製品などの棚卸資産、店舗・機械・備品などの事業用固定資産等、山林の災害による損失(災害に関連するやむを得ない支出を含む。)をいいます。
留意しておきたい所得控除と税額控除
1.雑損控除と災害減免法による軽減・免除
地震・火災・風水害などの災害により、住宅や家財などに損害を受けた場合には、確定申告により「雑損控除(所得控除)」と「災害減免法(所得税減免)」のうちどちらか有利な方法を選んで所得税の全部または一部を軽減することができます。
雑損控除 | 災害減免法による軽減・免除 | |||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
適用の対象 | 災害・盗難・横領による住宅・家財を含む生活に通常必要な資産 (事業用資産は対象にならない。) |
災害のみによる住宅・家財 (損害額が住宅・家財価額の1/2以上であること。) |
||||||||||
控除額・軽減額の計算 | 次の(イ)または(ロ)のうちいずれか多い方の金額。
(イ)損害金額-所得金額×1/10 ※「災害関連支出」とは、災害により滅失した住宅、家財などを除去するためなどのやむを得ない費用。 |
|
2.医療費控除とセルフメディケーション税制による控除 制度の概要
[1]制度の概要
通常の医療費控除 | セルフメディケーション税制 | |
---|---|---|
対象医療費 | 医師または歯科医師による診療または治療の費用、治療または療養に必要な医薬品の購入金額、一定の場合の通院費等 | 一定のスイッチOTC医薬品(※1)の購入金額 |
控除金額 | 医療費のうち10万円を超える部分 | 一定のスイッチOTC医薬品(※1)の購入金額のうち12,000円を超える部分 |
控除対象者 | 居住者 | 健康の維持増進および疾病の予防への一定の取組(※2)を行っている居住者 |
適用範囲 | 自己または自己と生計を一にする配偶者その他の親族に係る医療費等 | |
控除限度額 | 200万円 | 88,000円 |
※1. 医師によって処方される医薬品(医療用医薬品)から、薬局やドラッグストア等で購入できる医薬品に転用された医薬品をいいます。具体的な対象医薬品は、厚生労働省のホームページ(https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/000377413.pdf)にて確認してください。
※2. 健康保険組合、市区町村国保等が実施する人間ドック等の健康診査、インフルエンザワクチン等の予防接種、勤務先で実施する定期健康診断、特定健康診査(いわゆるメタボ検診)、特定保健指導、市町村が健康増進事業として実施するがん検診など
[2]制度の選択適用
医療費控除とセルフメディケーション税制はどちらか一方しか利用できないので、どちらの制度を利用するかを選択しなければなりません。どちらのほうが有利なのかをよく検討して選択してください。
≪ケース別の有利不利の判断例≫
ケースA | ケースB | ケースC | |
---|---|---|---|
通常の医療費 | 15万円(>10万円) | 15万円(>10万円) | 5万円(≦10万円) |
スイッチOTC薬 | 8万円(>1.2万円) | 3万円(>1.2万円) | 3万円(>1.2万円) |
選択 | セルフメディケーション税制 | 通常の医療費控除 | セルフメディケーション税制 |
理由 | セルフメディケーション税制のほうが超過部分が多いため | 通常の医療費のほうが超過部分が多いため | 通常の医療費控除は下限額を下回っているため |
3.寄附金控除
寄附金控除については、支払った寄附金の種類によって所得控除と税額控除の取り扱いが異なります。また、個人住民税に対しても適用条件が変わります。
寄附金の種類 | 所得税 | 個人住民税 | ||
---|---|---|---|---|
所得控除 | 税額控除 | 税額控除(基本控除) | 税額控除(控除の上乗せ) | |
日本赤十字社への義援金 | ○ 適用 | × | ○ 適用 | ○ 適用 |
中央共同募金会への義援金 | ○ 適用 | × | ○ 適用 | ○ 適用 |
中央共同募金会へのNPO等の被災者活動資金 | ○ どちらか選択適用 | △(条例による) | × | |
認定NPO法人への被災者救援活動資金 | ○ どちらか選択適用 | △(条例による) | × | |
ふるさと納税 | ○ 適用 | × | ○ 適用 | ○ 適用 |
※ 所得税の所得控除は震災関連の寄附金控除、税額控除は特定震災指定寄附金特別控除の場合。個人住民税の基本控除はすべての寄附金が対象の税額控除、控除の上乗せ(特例控除)は震災義援金とふるさと納税適用時の場合。
平成30年分から適用される改正点について
1.配偶者控除と配偶者特別控除
[1]配偶者控除
納税者本人の合計所得金額に応じて次のとおり細分化されたうえで、合計所得金額が1,000万円を超える場合には適用されないことになりました。
納税者本人の合計所得金額 | 控除対象配偶者 | 老人控除対象配偶者 |
---|---|---|
900万円以下 | 38万円 | 48万円 |
900万円超 950万円以下 | 26万円 | 32万円 |
950万円超 1,000万円以下 | 13万円 | 16万円 |
[2]配偶者特別控除
納税者本人の合計所得金額に応じて次のとおり細分化されたうえで、対象となる配偶者の合計所得金額の上限が拡大されました。なお、納税者本人の合計所得金額が1,000万円を超える場合には適用されないという取り扱いは改正前と同じです。
控除を受ける納税者本人の合計所得金額 | ||||
---|---|---|---|---|
900万円以下 | 900万円超 950万円以下 | 950万円超 1,000万円以下 | ||
配偶者の合計所得金額 | 38万円超 85万円以下 | 38万円 | 26万円 | 13万円 |
85万円超 90万円以下 | 36万円 | 24万円 | 12万円 | |
90万円超 95万円以下 | 31万円 | 21万円 | 11万円 | |
95万円超 100万円以下 | 26万円 | 18万円 | 9万円 | |
100万円超 105万円以下 | 21万円 | 14万円 | 7万円 | |
105万円超 110万円以下 | 16万円 | 11万円 | 6万円 | |
110万円超 115万円以下 | 11万円 | 8万円 | 4万円 | |
115万円超 120万円以下 | 6万円 | 4万円 | 2万円 | |
120万円超 123万円以下 | 3万円 | 2万円 | 1万円 |
2.スマホ申告
国税庁ホームページで提供している「確定申告書等作成コーナー」について、スマートフォン専用画面の利用が可能となります。平成30年分の所得税確定申告については、年末調整済みの給与所得者で、医療費控除、ふるさと納税などの寄附金控除に係る還付申告をする方のみが対象となります。
3.電磁的記録印刷書面
生命保険料控除、地震保険料控除、寄附金控除の適用を受ける場合に提出または提示すべきこととされている書類の範囲に、電子証明書等に係る電磁的記録印刷書面が加えられました。電磁的記録印刷書面とは、電子証明書等に記録された情報の内容を国税庁長官の定める方法によって出力することにより作成した書面をいいます。
この改正により、保険会社や自治体等から電子交付された証明書データに関し、国税庁のホームページに登載するシステムを使いプリントアウトした書面(QRコードが付きます。)を申告用の添付書面として利用できます。
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