「インボイス制度」のココが気になる!運用面について詳しく解説します
税務ニュース
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「適格請求書等保存方式(インボイス制度)」のスタートまで、あと3年を切っています。前編では当制度のあらましについてご案内しました。法人・個人ともに事業者であれば必ず関わるもの。“知らなかった”では済まされない大切な実務の知識であることはご理解いただけたかと思います。今回は「インボイス制度」の気になる運用面についてご紹介させていただきます。
免税事業者が売り手となる取引があった場合はどうなる?
「インボイス制度」の導入後は、買い手が消費税計算において仕入税額控除(商製品やサービスの購入に係る消費税相当額を差し引くこと)をするために、売り手事業者の登録番号などが記載された「適格請求書」を保存しなければならないことを前編でご確認いただきました。
消費税の申告計算
ここで、基準期間の課税売上高が1,000万円未満であることなどの理由から消費税の申告・納税をしなくてもよい事業者のことを一般的に消費税の「免税事業者」と呼ばれますが、この免税事業者は、税務署に届出をすることにより課税事業者となる(つまり免税の要件を満たしていても消費税の申告・納税をする)ことを選択しない限り、適格請求書(インボイス)として必要な登録番号は付与されません。
買い手事業者は、このような免税事業者や消費者などから消費税の課税対象となる商製品やサービスを購入したとしても、消費税の申告計算をする際には原則的に仕入税額控除ができなくなります。
そこで経過措置として「インボイス制度」の導入後6年間は、登録番号が記載されていなくても区分記載請求書等保存方式(現行制度)と同様の記載事項が満たされた請求書とこれに係る帳簿を保存しておけば、一定割合(下記の表を参照)の仕入税額控除が認められます。ただし、2029年10月からは適格請求書等の要件を満たさない取引については全額控除することができません。
経過措置期間 | 仕入税額控除額の割合 |
---|---|
(前半3年間)2023年10月1日~2026年9月30日 | 80% |
(後半3年間)2026年10月1日~2029年9月30日 | 50% |
免税事業者がインボイス発行の登録事業者となるには?
免税事業者が適格請求書発行事業者(インボイスを発行・交付できる事業者)として登録を受けるためには、原則、所轄税務署に「消費税課税事業者選択届出書」を提出して課税事業者とならなければなりません。
ただし経過措置として、2023年10月1日を含む事業年度(課税期間)中に登録を受けたい場合には、登録を受けた日から課税事業者となることができます。
(例)12月決算法人または個人事業者で、施行日(2023年10月1日)から登録事業者となる場合
ここがポイント
- 登録日以降は課税事業者となるため消費税の申告・納税をしなければなりません。
- このケースでは特例として「消費税課税事業者選択届出書」を提出する必要はありません。
- 2023年10月1日の属する事業年度(課税期間)の翌事業年度(課税期間) 以降(上記のケースでは2024年1月1日以降)に登録を受ける場合には、「消費税課税事業者選択届出書」を所轄税務署に提出したうえで、課税事業者となる課税期間の初日の前日から起算して1か月前の日まで(上記のケースでは2024年1月1日から登録を受けるときは2023年11月30日まで)に「適格請求書発行事業者の登録申請書」の提出が必要です。
8%軽減税率対象の売上がなくても登録は必要?
適格請求書発行事業者の登録を受けるかどうかは事業者の任意ですが、適格請求書(インボイス)を交付できるのは、登録を受けた(登録番号を付与された)適格請求書発行事業者に限られます。
買い手(消費税の課税事業者)が仕入税額控除をするためには適格請求書(インボイス)が必要であることを踏まえて、販売する商品に軽減税率対象品目があるかどうかに関わりなく、登録を受けて適格請求書(インボイス)を交付すべきでしょう。
適格請求書発行事業者として登録されたら公表される?
適格請求書発行事業者として登録されると登録番号が付与されます。法人の場合は、「T(ローマ字)」にすでに付与されている13桁の法人番号を付加したものとなり、個人事業者や人格のない社団等の場合は、同じく「T(ローマ字)」に所定の数字13桁を付加したものとなります。
国税庁が「適格請求書発行事業者登録簿」を備えつけ、国税庁のホームページにおいて公表します。登録番号による検索が可能となる予定です。公表内容は以下のとおりです。
- 適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号
- 登録年月日
- 登録取消年月日、登録失効年月日
- 法人(人格のない社団等を除く。)については本店または主たる事務所の所在地
- 「適格請求書発行事業者の公表事項の公表(変更)申出書」により主たる屋号や主たる事務所の所在地を公表する申出をした個人事業者や人格のない社団等は、これらの事項
- 特定国外事業者(国内において行う資産の譲渡等に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものを国内に有しない国外事業者)以外の国外事業者については、国内において行う資産の譲渡等に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地
そのつどの請求書がない口座振替などによる取引の場合はどうなる?
家賃、リース料、顧問料など、契約に基づき代金の決済が行われながら、そのつど請求書などが交付されない取引であったとしても、買い手(支払い側)が仕入税額控除を受けるためには適格請求書の保存が必要であることには変わりありません。
適格請求書は一定期間の取引をまとめて交付することができることを踏まえれば、売り手(たとえば家賃の場合は貸主)から一定期間の賃貸料についての適格請求書の交付を受けるという方法が考えられます。
あるいは、適格請求書として記載しなければならない項目は一つの書類だけで網羅されている必要はなく、複数の書類でもって項目を満たしていればよいとされているので、たとえば契約書に適格請求書として記載しなければならない項目の一部が記載され、取引を行った事実を示す書類とともに保存しておけば、仕入税額控除をすることができます。
そのつど請求書が交付されない取引があった場合の書類の保存例
- 適格請求書に記載すべき項目のうち、実際の取引年月日以外の項目が記載された契約書
- 口座振替の場合は実際の取引年月日が記載された通帳または金融機関発行の入出金明細
- 振込みの場合は金融機関が発行した振込金受取書
ABOUT執筆者紹介
税理士 西原憲一
大阪市生まれ。大阪市立大学 商学部 卒業。監査法人系税務コンサルティング会社に勤務。
2000年3月 西原会計事務所を開設。2002年3月 FP総合事務所 ユナイテッド・エフピー・ファームを設立。2007年6月 株式会社UFPFに組織変更し、代表取締役に就任。近著に『マンガと図解でよくわかる インボイス 消費税の基本と手続きの仕方がわかる本』がある。
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