コロナ禍でも活路が見つかる!今の飲食店に求められるDX戦略
税務ニュース
多くの飲食店が、コロナ禍での経営環境の変化に伴い、収益性を大きく悪化させています。特に都市部やアルコール提供中心の業態において、その傾向は顕著なようです。そのような環境変化への対策として、テイクアウトやデリバリー、更には通販という販売方法への参入を検討される事業者も少なくありません。今回はそのような販売方法の転換や拡張が経営管理にどのような変化をもたらすかについて、DX(デジタル・トランスフォーメーション)の観点から考察していきたいと思います。
イートイン専業型の飲食業の基本的なビジネス構造
はじめに、イートイン専業型の飲食業の基本的なビジネスモデルについて整理し、そこからテイクアウト等の販売方法について触れていきたいと思います。
イートイン専業型の飲食業の収益は、来店した客数にその平均単価を乗じたもので計算できます。ランチ・カフェ・ディナーなどの営業時間帯ごとにメニューが異なる場合も多く、平均単価は営業時間帯ごとに大きく差が開く場合もあります。イートインとは、当然ながら「客が店舗で消費を行う」ものですから、受注できる注文量や受け入れ可能な客数は、店舗の席数や営業時間などの制約を受けます。
次に費用です。主たる費用には食材原価と人件費があり、これらを総称してFL費(F : food 食材, L:labor fee 人件費)と呼ばれています。食材は、一定の廃棄ロスを除いて変動費と考えられます。人件費の取り扱いは固定費(売上高に関係なく生じる費用)なのか変動費(売上高に関係して増減する費用)的なものなのかお店によって扱いが変わりますが、多くの場合、調理場やレジなど最低限の人員に係る部分が固定費であり、忙しい時期に増員するホールスタッフや調理補助などが変動費的な性質のものではないでしょうか。
その他の固定費に、広告費など客の来店を促すための費用、地代家賃や光熱費などの店舗に係る費用があります。売上に占める費用の目安は、FL費50〜60%、広告費5〜10%、地代家賃や水道光熱費15〜20%、減価償却費が5〜10%程度で、営業利益は5%未満というイメージです。当然ながら業態や地域によって大きく異なり、都心部では家賃だけで10%を優に超える場合もあるようです。
資金繰り面では、店舗や設備に係る資金を金融機関等からの借り入れで調達していることが多く、減価償却費と営業利益からそれらの返済原資を捻出するイメージです。仮に2,000万円の初期投資をして5年で返済を行う場合で、毎月の支払額は元本+利息 で35〜40万円程度になり、月の売上高が400万円程度あれば、どうにかやりくりできます。
コロナ禍がどう影響を与えたか?
次に、これがコロナ禍のピーク期やその後(現在)でどのような影響を受けたのか、受けているのかを整理していきます。
まずは収益の基本となる集客への影響です。緊急事態宣言や蔓延防止等重点措置の期間を筆頭に、コロナ禍ではほとんどの飲食店が営業時間の短縮または営業自粛をすることになりました。収益は客数に単価を乗じたものだとすると、多くの飲食店で客数の減少に起因する著しい減収が生じました。売上の減少に伴って変動費は減りますが、固定費は変わりません。都心部では売上が70〜80%減少した店舗もあり、コロナ前にどうにかやり繰りできていたお店でも、毎月何十万円もの資金不足が生じます。これらの対策として無利息・無担保の融資制度等を活用し、多くのお店が運転資金の借入れをしていますが、この借入れが、その後(現在)や将来に対して大きな影響を与えることになります。
この原稿を執筆している2021年12月末時点では、まだコロナ後と言えるほどではないため、はっきりしたことは言えませんが、少なくとも大規模な忘年会や、夜遅くまで出歩く人の数はコロナ前に比べて減少しており、店内消費型の飲食店の客数も確実に減っていると思います。飲食店や食材卸の事業主の方から直接伺う景況感でも、現時点で概ねコロナ前の7割程度、将来的に戻っても8割程度まで、というご意見が多いようです。これらは、新しい生活様式に基づくものであり、ピーク期における限定的な影響と、恒久的な影響とがあるようです。
つまり、飲食業の事業主としては100%元通り、という楽観的な感覚はもちづらく、予算や事業の計画は70〜80%の売上でやりくりできるものとして考えざるを得ないでしょう。その場合に大きく2つの問題が浮き彫りになります。多くのお店では、コロナ前の売上で営業利益5%未満、資金繰りはどうにか、という水準でした。これが売上がその70〜80%になり、さらに運転資金目的で受けた追加融資の返済が上乗せされます。追加融資は、2020年春に借り入れて元本返済の据え置きが2年であった場合で2022年の春から、3年であったとしてもその翌年2023年から返済が始まります。1000万円を5年返済(元本返済2年据え置き)で借りた場合の返済額は月に30万円程度です。
つまり、コロナ前とまったく同じ利益率で計算すれば、30万円の追加の返済を行うためには、月に500万円以上の売上増加が必要になります。しかし、これは、店舗の席数や営業可能時間などの制約から、あまり現実的とは言えないように思います。
非常に悲観的なストーリーに見えますが、これは極端な事例ではなく、比較的多くの事業者の方が当てはまるものだと思います。コロナ禍での運転資金目的の借入れをしておらず、返済額が増えていなかったり、減価償却がすでに終わっているなどもあり得ると思いますが、その場合でも、すでに現在進行形で生じている客数の減少の影響は小さくありません。これが店内消費型の飲食業の経営環境に生じていることの概況ではないでしょうか。
しかし、コロナ禍では悲観的なストーリーばかりが生まれたわけではなく、経営者の方々の努力により新しいビジネスチャンスが確実に生まれています。それが、イートイン以外の業態への転換や拡張、つまりテイクアウトやデリバリー、更には通販という販売方法です。「店内消費型の売上はコロナ前に比べて70-80%しか無いが、テイクアウトとデリバリーでコロナ前の売上の50%程度を確保できている」などの事例は、みなさんも耳にされたことがあるのではないでしょうか。
次の章で、それらの販売方法の転換や拡張についてDXの観点から考えていきたいと思います。
販売方法の転換と経営管理の変化
イートインからテイクアウト・デリバリー・通販などへの販売方法の転換や拡張に伴って生じる最も大きな変化は、メニューの消費地が”店舗”から”自宅等”に変わることです。これは、端的にはリピート客の注文頻度の重要性が高まる、とも言い換えられると思います。要点を整理していきましょう。
自宅等での在宅消費の場合、そもそも在宅消費の文化が定着していたアルコールやデザート等の、店内消費型から見た場合のサイドオーダー商品の注文数は下がり、主食中心の注文になるため客単価の減少を引き起こします。また、テイクアウトやデリバリーによる消費は自宅等から近いでことがお店選びの条件になりやすいため、地域差はあるものの商圏は概して小さくなり、これは新規客とリピート客の構成比において、リピート客が重くなったことを意味します。また、自宅等ということは、”お一人様”や”家族やパートナーと”という少人数の客層の比重が増えるため、注文あたりの商品数も減少します。
この環境変化に対応するための経営管理とはどんなものか。どうすれば細分化したお客様にお店のメニューを訴求し、ファンにすることができるのか。経営者としての悩みは尽きないかもしれません。しかしながら、一見難しく見えるこれらのテーマも、お客様側から見てみればシンプルなものかも知れません。お客様は、みなさんのお店にどういう食事体験を望んでいるのでしょうか? お店ごとにその答えは違うと思いますが、この厳しい時代に、少なくとも今日現在も飲食業として生き残っていらっしゃる皆様は、ある程度のお答えをお持ちなのではないかと思います。まずは、その提供方法を現代版にアップデートしていくことから、例に沿って考えて見たいと思います。
例えば、店内消費型では、常連さんの顔と好みを覚えておいて、商品をお勧めするという接客が従来から行われていました。これを得意として繁盛していた、常連さんメインの居酒屋や料理店は多いと思います。これが、消費地が自宅等に変わることで、対面での接客ができなくなり、非対面化(例えば自社のテイクアウト予約サイトや、Uber Eats 等のアプリ経由)になります。また、以前は”顔”で行っていた常連さんの特定ができなくなり、代わりにログインIDやメールアドレス、電話番号で認証することになります。注文がデジタル化したことでお客様ごとの注文履歴の管理は精度が上がります。
例えば、注文頻度が落ちてきた常連さんに去年ご愛顧いただいた季節商品をLINEで通知したり、初めてご注文いただくお客様をファン化させるために、必ず初回に注文させたいものをプッシュしたり、サイドメニューや食べ合わせに対するリコメンドをしたり、という活動が可能になります。もちろん、対面で声を掛けるほどの効果は得られませんが、それは変化として受け入れるしかありません。Amazonや楽天市場などが登場したことで、小売業界ではすでに20年ほど前に経験をした変化です。そのノウハウを踏襲して、飲食業界でもデジタルな顧客管理を実践できると思います。
他にも、カフェやファストフード業態には、注文と会計程度しか接客はないが、特定の商品の魅力で繁盛していたお店もありました。消費地が自宅等に変わったところで商品の魅力は減少しませんから、テイクアウトを始めることにより店舗設備上の制約を受けにくくなり(調理場の設備拡張は課題ですが)、売上を伸ばすことが出来ます。この場合には、注文をデジタル化(テイクアウト注文専用サイトなど)することで、電話での受注作業などを減らし、本来変動費扱いであったアルバイトなどの人件費増加をすることなく売上を向上させることが期待できます。商品開発に力を入れ、冷凍でも品質が落ちない提供方法を構築できれば、通販参入によって商圏の制約そのものをなくすことも可能です。
通販は、生産ライン(多くの場合は、既存店舗の厨房ですが)の稼働時間がランチやディナーというイートインで忙しい時間帯と競合しないというメリットもあります。また、売れ筋品とアルコールの抱合せギフトセットなどの商品展開をするお店も増えているようです。
その他にも、生産方法や販売方法をどうデジタル化するか、ということを考えていけば、色々なアイデアが生まれると思います。このように、環境の変化に対応して、自身のお店の強みを活かし、データとデジタル技術の活用により競争力をつけていくことこそが、飲食業のDX(デジタル・トランスフォーメーション)です。単にテイクアウトやデリバリーを始める、ということではなく、どうやって経営を現代にアップデートするか、ということに焦点を絞って考えてみてはどうでしょうか。
つぎに、それらのDXを行う上で必要となってくる具体的なツール類にも触れておきたいと思います。
具体的なDXに使えるツール類
(1)クラウドPOSレジ
一番最初に検討すべきものだと思います。従来のレジスター(ドロア+電卓+レシートプリンタ)とは全くの別物で、顧客管理や注文履歴の管理など、イートインからの転換や拡張を考える場合には必須のツールです。(2)以降で述べるような、テイクアウトやデリバリーとの連携を考えると、API連携という機能を用いてデリバリーサービスやテイクアウトシステムと連携可能なものを選ぶと良いと思います。
また、テイクアウトやデリバリーを始めると、キャッシュレス決済の多様化対応も大変になります。売上記録が煩雑化したり、レジ周りが端末で混雑しないように、R PayやStar Pay などの複数の決済手段をまとめてくれるサービスと連携できることも必須条件ではないでしょうか。クラウドPOSレジには様々なサービスが出ていますが、執筆時点の主要なPOSレジでは、スマレジとUレジがUber Eats 連携に対応しています。スマレジは各地に実機に触れるショールームもありますので、迷ったら一度触ってみることをお勧めします。
なお、税金の申告書や月次の試算表も、これらのクラウドPOSレジの売上データを会計ソフトに、直接APIで連携したりcsvファイルを取り込むことで作成できます。
初期費用は10〜20万円、月額1万円程度で利用できます。2022年度の補助金等で補助できる費用も多いため、ぜひご検討ください。
(2)テイクアウトシステム
テイクアウトを行う場合は利用したほうが良いと思います。テイクアウト注文専用の通販サイトのような仕組みで、お店のLINE通知やinstagram などから導線を引いておき、お客様がご自身のスマートフォン上で注文できるようになります。決済手段はオンラインと来店時のレジ会計が併用できます。電話注文でテイクアウトに対応する場合、イートインでの注文よりも接客に時間がかかることが多く、その省力化に便利です。サービスを選ぶ場合は、クラウドPOSレジに連携可能で、完成予定時刻の通知機能(できればLINE通知)があり、顧客台帳上のお客様に対してステップメールが送信可能なものが良いと思います。ステップメールとは、注文情報や顧客情報に基づいて、個別の通知を行う機能で、オンラインでのおもてなしの最初の一歩になるのではないでしょうか。
初期費用は0円で、月額1万円程度で利用できます。前述のPOS レジに“スマレジ”を使う場合は、LBB cloud というサービスをお勧めします。
(3)デリバリーサービス
すでに普及しており、多くの方が利用したこともあると思います。Uber Eats や出前館が有名ですが、地域独自のものなど様々なサービスが台頭してきています。ユーザー数の多いサービスが魅力的ではありますが、基本的にはGoogle 等のウェブ検索と同様に上位表示されなければ全く注文が入らないこともありますので、競合優位性等を考慮しながら様々なサービスを同時に試行錯誤することになるのではないでしょうか。
写真のシズル感が重要になるため、料理用撮影技術をオンラインスクールなどで勉強している経営者もいらっしゃるようです(Udemy 等で1万円程度)。店舗内での注文管理や販売管理のために、各デリバリーサービスの売上をクラウドPOSレジに連携できる機能があることが望ましいですが、この点はあまり普及しておらず、業界としてはまだまだ伸びしろがあるかと思います。Uber Eats については、スマレジとの連携は簡単に設定できます(スマレジ側で追加費用が必要,:月額1100円〜)
(4)通販
大きく分けてAmazon や宅麺.com などのモールに出店する方法と、直営店舗で出店する方法があります。モールの場合はそのサービスの顧客を対象とし、直営店舗の場合は実店舗のイートインやテイクアウトなどの顧客を対象とすることになります。テイクアウトやデリバリーと異なり、基本的には集客や広告のノウハウが要求されます。チルドや冷凍での出荷だけでなく、レトルト化などによって常温出荷できる方法も増えてきていますが、それらの開発には一定の開発コストがかかるため、事業再構築補助金等と併せて検討されるケースも多いようです。
また、宅麺.com のように、ある程度の知名度と商品力があれば、提供方法についてのノウハウはすべて提供してくれる事業者も登場しており、自社での開発プロセスを省略して通販参入できる方法も出てきています。
まとめ
コロナ禍での変化が飲食店に与えた影響は大きく、業界の基本的なビジネスモデルそのものを変化させてしまいました。また、運転資金の確保のために借入れが増えたお店においては、今後の返済への対応もしっかりとした検討が必要です。しかし、これらの変化の中には大きなチャンスも潜んでいますし、少なくとも、店舗経営の活動の中にデジタルの要素を取り込んでいくことで、それなりの成果は期待できると思います。まずは顧問税理士等としっかりとした資金繰り計画や損益計画を策定し、補助金等を最大限活用しながらDXの戦略を立て、新しい時代への生き残りと発展を目指して頂ければと思います。
※各種ツールの導入やそのための事業計画策定、補助金の申請等については、当社でも承ります。ご興味のある方はお問い合わせください。
ABOUT執筆者紹介
小泉直哉
株式会社ミッドランドITソリューション 取締役
一般社団法人 日本業務効率・情報安全研究機構 執行役員
士業事務所のデジタル・トランスフォーメーション(DX)について、事務所個別の最適化だけでなく、全ての事務所が使える理論体系への整理とその活用のための手法を研究・実践している。セキュリティや経理業務の領域等では特許等も複数有している。
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