26 October

元国税芸人による税務調査の連絡から終了まで

掲載日:2023年10月26日   
税務ニュース

いつか税務調査がやってきたらどうしようと戦々恐々としている個人事業者や法人の経営者は少なくありません。不正の有無に関係なく、税務調査とは恐ろしい。それはどのような手続きでどのようなことが行われて、その結果どうなるかがわからないからです。

人は理解できないものに恐怖を感じます。税務調査も理解すれば恐ろしくありません。不快ではあるけれど。

税務調査は予告なくやってくるのか

税務調査はドラマのように当然やってきません。ドアのチェーンを工具で切ったり土足で家に入ってきたりすることはなく、きちんと事前に連絡があり、社長や税理士さんと予定を調整して調査日を決定します。地方によって慣習が異なるようですが、東京国税局管内では納税者に直接連絡することはよくないこととされ、まずは税理士さんに電話連絡があります。

ただ「無予告調査」というものが存在し、現金商売のお店や不正が疑われる事業者へは事前の連絡なしに調査官がやってきます。この無予告で調査される人は調査対象者のほんの一握りで、調査そのものも20社に1社または100人に1人程度と言われています。それでも、いつか調査があるかもしれないと考えて恒常的に正しく記帳・申告しなければいけません。

所得税の確定申告の時期には調査が少ない

個人事業者の税務調査を担当する税務署の個人課税部門の職員さんの仕事は、確定申告期間が始まる2月16日の前後から3月15日を過ぎたあたりまで繁忙期となります。よってこの時期に税務調査はあまり行われません。税務調査に対応する税理士さんも多忙なので、税理士さんと契約している個人事業者はとくにその傾向が顕著だと言えます。同様の理由で法人への税務調査も微減します。

調査の日数は事業の規模によって異なります。個人事業者なら1日、中小企業なら2日が目安です。調査を担当する職員も基本的には1人ですが、担当者が新人であるとか規模が大きいとか国際取引が多くて英語が必要といった場合には2人以上となることがあります。税務署の調査担当者は事務官、調査官、上席、統括官と出世していきます。事務官が来たら納税者にとってはラッキーかもしれません。

調査当日の流れ

東京国税局管内ではまず名刺交換をします。どうやら調査担当者から名刺を渡されない地方もあるようです。挨拶の後は、いきなり調査が始まるわけではなく、雑談をします。正確には雑談をするように指導されています。話すことが苦手な若手はここで苦労します。

芸人をやっているとコミュにケーションが上手になるし、話題も増えます。それでも全く知らない人とは何を話していいのかわかりません。「他愛のない話」というものができないからです。国税職員のみなさんがどのように雑談をしているのかとても興味深いです。話が盛り上がったところで(盛り上がらなくとも)、30分ほど経過したら帳簿を見せていただきます。総勘定元帳だけでなく、請求書や領収証も確認し、ときには従業員からも話を聞き、保有する機械や土地を見に行くこともあります。

事前に不正の端緒となる情報を持っていて、それを頼りに調査を進めることもあります。この情報の例としては、取引先から入手した取引記録やタレコミがあります。みなさんも税務署に電話をすればタレコむことができますが、一度冷静になって考えてみてください。タレコミの多くが根拠の乏しい妄想です。

事前に何の情報もなければ、売上の除外と架空経費の計上を確認します。個人事業者本人や社長の個人的な費用の算入可否も納税者のよく行う誤りとして確認されます。領収証の数字を書き換えて経費を水増しするような不正は多くありませんが、転記ミスや現金売上を経理担当者に伝えずに計上が漏れてしまうことはよくあります。

銀行口座をふたつに分けてどちらも売上の入金口座として使用し、片方は除外するような不正も見かけます。

調査の後もまだ続く

1日ないし2日の調査が終わって担当者が帰っても、それからしばらく調査は続きます。持って帰った資料を整理し、その内容をもとに取引先に接触して資料を確認する反面調査や銀行の記録を確認する銀行調査を行うこともあります。他の事業者への調査も並行して行っているので、少しずつ作業を進め、追加の資料のやりとりなどを経て、調査のまとめに入ります。こういう誤りが◯◯円あって、不正があった分は重加算税の対象となります、修正申告をしてください、などと言われます。税務署に出向いて説明を受けることも多く、不正があれば一筆書くことを求められます。

その後納税へ

税務調査によって誤りや不正が見つかれば、税金を追徴されます。所得税、消費税、法人税、源泉所得税、印紙税など調査の結果によって様々な税金を納税することになります。それだけでなく、誤りに対しては過少申告加算税、仮装隠蔽があれば重加算税、確定申告をしていなければ無申告加算税が賦課されます。利息である延滞税もかかります。

これらは納税者にとって重い負担となりますが、もう2度とこんなことはしないぞと思う方は多くありません。一度仮装隠蔽をした人はまた行う傾向にあるため、一度不正が見つかれば再度の税務調査が行われやすくなります。

いつか税務調査の連絡があったら、この記事を思い出してください。

ABOUT執筆者紹介

さんきゅう倉田

吉本興業

大学卒業後、東京国税局に入局。法人の税務調査などを行った後、吉本興業で芸人となる。著書に『お金の貯め方増やし方』(東洋経済新報社)などがある。

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