13 November

【インボイス相談】インボイスがないと「消費税まるごと損」「経費で落とせない」は本当か

掲載日:2023年11月13日   
税務ニュース


2023年10月から始まったインボイス制度。巷ではいろいろな誤解があるようです。今回、実際にあったインボイスへの疑問をストーリー形式でひも解いて行きます。

登場人物

山田さん(以下「山」)

ゴッドハンドを持つセラピスト。マッサージを受けると身体が一気に元気になる。主婦層にファン多い。看護師経験もあり研究熱心だが税金はニガテ。


まゆこ(以下「ま」)

税理士・税務ライター。「むずかしい税金をいかに分かりやすく表現するか」ばかり考えている。お絵かきが趣味。

インボイス登録すべきかどうかは「お客様次第」

山「売上少ないならインボイス登録しなくていい、ってホント?」
ま「どこで聞いたんですか。そんな話」
山「確定申告って確か、売上が少ないならいらないんでしょ?アレと同じかなぁと思って」
ま「うーん…インボイス登録するかどうかは『売上がいくらか』は関係ないんですよ」
山「そうなの?」
ま「登録するかどうかは、お客様次第なんです」

山「売上じゃなくて『お客様がどうか』なのね。なんでだろう」
ま「お客様の中には、インボイスがないと損する人となくても損しない人がいるからです」
山「損をする?どういうこと?」
ま「インボイスは、納める消費税の計算にかかわるんですよ。計算式はこんな感じ」

ま「10月1日以降は、インボイスをモノやサービスを売ってくれた事業者からもらっておかないと、仮払いした消費税を差し引けないんです」
山「払った分の消費税が引けないと、その分納める消費税が増える…確かに損だわ。なるほど」
ま「ただ、すべての事業者がこの方法で計算して納めているわけではないんです」
山「そうなの?」
ま「年商5000万円規模の事業者だと「簡易課税」というシンプルな方法で納税額を計算してもいいとされています。簡易課税はインボイスがいりません」

ま「事業者でも年商規模が1000万円以下の免税事業者もインボイス不要です。消費税の申告も納税もいりませんし」
山「確かに。私、消費税を納めたことがないもの」
ま「主婦とか子どもといった一般消費者もインボイスはいりません。事業者ではないので、そもそも関係ない」
山「なるほど」
ま「まとめるとこんな感じになります」

山「私だとお客様ってほとんどが主婦層なのよね。『インボイスほしい』なんて言わないから登録しなくてもいい気がする」

インボイスでなくても「消費税相当額×80%」は差し引ける

ま「本則課税で消費税を納めている事業者だと『インボイスがないと損をする』わけです。ただ、まるごと損するわけでもありません」
山「そうなの?なんで?」
ま「インボイス制度の経過措置の1つに『80%控除・50%控除』があるからです。これで計算すればインボイスをもらえなくても消費税相当額の一部を差し引けます」
山「私みたいな免税事業者に払っても、払った分の消費税のうち少しは引けるってことね」
ま「はい。2023年10月1日から3年間は『消費税相当額×80%』、その後3年間は『消費税相当額×50%』を預かり消費税から差し引けます」

山「スポーツ選手のお客様が1人いて『インボイスほしい』って言われてたんだけど…これで対応してもらえるなら登録しなくても大丈夫かな」
ま「山田さんは、発行する領収書に注意してあげてください。請求書や領収書に条件があって、それを守らないと80%とか引けないんですよ」
山「あら。どういう条件?」
ま「『区分記載請求書』という、9月30日以前のルールに沿った請求書や領収書であることが条件です。山田さんだとこんな感じになるかな」

ま「山田さんの施術はBtoCなので買い手の名前はなくてもOKです。ただ、スポーツ選手のように事業主の方には書いてあげた方が親切かも」
山「定期的にご依頼くださるしね」
ま「この他、帳簿にも次の項目は書かないといけないので気をつけてくださいね」

税込1万円未満は消費税全額を差し引ける

ま「あと、当面6年間は、支払った金額が税込1万円未満ならインボイスがなくても払った消費税をまるごと引けます」
山「あら」
ま「ただ、これで納税額を抑えられるのは年商規模が1億円以下の課税事業者だけですね」
山「ふうん」
ま「ちなみに、これは買い手向けの措置なんです。山田さんがインボイスの発行事業者に登録し、お客様から『インボイスちょうだい』と言われたら発行しないといけません」

「インボイス以外だと経費にできない」は本当か

山「そうそう、さっきのお客様ね。本音では私にインボイス登録してほしいみたい。『インボイスがないと経費にできない』と聞いたらしくて」
ま「それ誤解です」
山「えっ」
ま「『経費』は会社や個人事業主の経費のことかと思います。でも会社の経費は法人税の話、個人事業主の経費は所得税の話です。一方、インボイスは消費税の話。税金の種類が違うので、同じ土俵では語れないんですよ」
山「あら」
ま「消費税で差し引けない金額は経費になりますよ。『インボイスがないと経費にできない』は都市伝説です」
山「そうなんだ。伝えておこう」
ま「経費で気にしたいのは『事業に関連するかどうか』ですね。プロのスポーツ選手のメンテナンスやマッサージ師の研修ならいいんですが、それ以外だとプライベートの支出として見られやすいんです。だから経費になりにくい。その点は要注意ですね」

ABOUT執筆者紹介

税理士 鈴木まゆ子

税理士・税務ライター|中央大学法学部法律学科卒。ドン・キホーテ、会計事務所勤務を経て2012年税理士登録。ZUU online、マネーの達人、朝日新聞『相続会議』、KaikeiZine、納税通信などで税務・会計の記事を多数執筆。著書に『海外資産の税金のキホン』(税務経理協会、共著)。

 

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