13 March

相続時精算課税の改正と税務の注意点

掲載日:2024年03月13日   
税務ニュース

相続時精算課税の改正と節税

贈与税の計算方法は、贈与財産を相続財産に加算する相続時精算課税という計算と、それ以外の通常の計算である暦年贈与課税の二つの計算方法があります。このうち、相続時精算課税について、令和6年1月より大きな改正がスタートしています。具体的には、暦年贈与課税と同様、年110万の基礎控除が相続時精算課税においても認められることになりました。この基礎控除の範囲内であれば、贈与税がかからないことはもちろん、贈与者の相続時に、相続財産として加算されることもないとされています。

従来、2500万の特別控除額の範囲なら贈与税はかからないものの、相続時精算課税により取得した財産は全額贈与者の相続財産に加算されて相続税が増えるため、この制度は使い勝手が非常に悪いと言われていました。しかし、今後は年110万までなら、相続税の課税もない訳で、相続時精算課税を使った生前贈与がやりやすくなります。

加えて、この改正後の相続時精算課税の基礎控除の取扱いは、暦年贈与課税の基礎控除よりも有利です。暦年贈与課税の場合、相続開始前7年間に贈与者がその相続人等に贈与した財産は、それが年110万円の基礎控除以下であっても贈与者の相続財産に加算して相続税を計算されるからです(生前贈与加算)。

こういう訳で、生前贈与を行って相続財産を減らす相続税対策を行うのであれば、今後は暦年贈与課税に代えて、相続時精算課税を使った方がいいと言われています。

暦年贈与課税との組み合わせも有効

加えて、もっと賢い生前贈与は、親子は相続時精算課税の贈与を使い、祖父母から孫へは暦年贈与課税の贈与を使うことです。なぜなら、先の暦年贈与課税の生前贈与加算は、贈与者から相続等により財産を取得した者に適用されるからです。孫は原則として相続人にはなりませんので、暦年贈与課税なら生前贈与加算の対象になることは多くないからです。

結果として、親からは相続時精算課税の基礎控除110万で贈与を受け、祖父母からは暦年贈与課税で110万の贈与を受けることで、その合計の年220万の範囲内で、贈与税も相続税も課税されずに、親や祖父母から子に財産を移転できると言われています。

相続時精算課税には大きなリスクがある

しかし、このようなうまい話ばかりではありません。相続時精算課税には大きなリスクが二つあります。

一つは、相続時精算課税は選択制ですが、選択すると撤回できないということです。このため、将来基礎控除を廃止するという税制改正が実現しても、特別な措置が設けられない限り、相続時精算課税を辞めることはできません。

私見ですが、国の本音としては、将来的に暦年贈与課税を廃止して相続時精算課税に一本化したいという意向を読み取れます。仮に暦年贈与課税がなくなればそれに合わせる必要はありませんので、相続時精算課税の基礎控除も廃止する可能性があると個人的には考えています。

相続時精算課税には時効がない

次に、相続時精算課税は時効がありません。暦年贈与課税の場合、贈与税の時効である6年間を経過すると、原則として相続時には課税されません。しかし、相続時精算課税は、贈与税の時効に関係なく、何年前の贈与税であろうと、相続財産に加算する必要が生じます。

税務調査にも限界がありますので、贈与税の申告漏れが見過ごされているケースも少なくないと思われますが、相続時精算課税を選択すれば、贈与税で見過ごされても相続税で課税されますので逃げられません。こういう意味で、贈与税の課税は非常に厳しくなります。

選択は慎重に

相続時精算課税の改正はインパクトが大きいですから、税務系のYouTubeでは広く取り上げられています。しかし、この辺りのリスクを細かく説明しているものは少ないため、慎重に検討する必要があります。

繰り返しですが、相続時精算課税の選択は撤回できませんので注意してください。

ABOUT執筆者紹介

元国税調査官・税理士 松嶋洋

昭和54年福岡県生まれ。平成14年東京大学卒。国民生活金融公庫(現日本政策金融公庫)、東京国税局、日本税制研究所を経て、平成23年9月に独立。現在は税理士の税理士として、全国の税理士の税務調査や税務相談に従事しているほか、税務調査対策・税務訴訟等のコンサルティング並びにセミナー及び執筆も主な業務として活動。

著書に『最新リース税制』(共著)、『国際的二重課税排除の制度と実務』(共著)、『税務署の裏側』、『社長、その領収書は経費で落とせます!』『押せば意外に税務署なんて怖くない』などがあり、現在納税通信において「税務調査の真実と調査官の本音」という500回を超える税務調査に関するコラムを連載中。

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