22 February

気になる改正点!農業者のための消費税インボイス制度

掲載日:2023年02月22日   
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農業者インボイス制度開始に向けての確認事項

消費税インボイス制度の周知活動が目立つようになってきた。「さて、これから真剣に考えないと」と重い腰を上げる方も含め以前の記事と合わせて確認していただきたい。また農業者の場合は免税事業者のまま取引できる特例があるため、前回記載の記事を参考に。既に登録済の農業者の方は前回記事、消費税インボイス記載ルールの再確認をお勧めする。

 

導入直前!2023年度(令和5年度)税制改正の影響

いよいよ2023年10月1日スタートするインボイス制度、2023年度税制改正により消費税等の一部が改正される。今回、農業版消費税インボイス制度について、法改正される部分を中心に解説してゆくのでぜひ参考にしていただきたい。記事の記載にあたり国税庁及び財務省の公表資料をもとにわかりやすく説明している部分は、著者の個人的な見解も含むことをあらかじめお断りする。

 

早速、気になる改正点をケース別に解説しよう!

小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置(2割特例)

農家はスーパーにコメ(新之助)の販売で税率8%、1,600円の消費税を預かっている。一方、肥料の仕入れで税率10%、1,000円の消費税を支払っている。

上記の図より、1,600円(売上税額)― 1,000円(仕入税額)=600円(納付税額)によらず、2023年度税制改正により1,600円×2割=320円を納付税額とすることができる。

免税事業者からインボイス発行事業者に登録した場合の税負担・事務負担を軽減するため、売上税額の2割を納税額とすることができる。

消費税の申告を行うためには、通常、経費等の集計やインボイスの保存などが必要だが、この特例を適用すれば、所得税・法人税の申告で必要となる売上・収入を税率毎(8%・10%)に把握するだけで、簡単に申告書が作成できるようになる。

2割特例の適用対象者

免税事業者がインボイス発行事業者の登録を受け、登録日から課税事業者となる者などが対象となる。したがって、インボイス発行事業者の登録を受けていない場合には、2割特例の対象とはならないので気をつけたい。

2割特例を適用できる期間

2023年10月1日から2026年9月30日までの日の属する各課税期間となる。

個人農業者のケース

ここがポイント

免税事業者である個人農業者が2023年10月1日から登録を受ける場合には、2023年分(10~12月分のみ)の申告から2026年分の申告までの計4回の申告が適用対象となる。

3月決算農業法人のケース

ここがポイント

免税事業者である3月決算農業法人が2023年10月1日から登録を受ける場合には、2024年3月決算分(10月~翌3月分のみ)から2027年3月決算分までの計4回の申告が適用対象となる。

2割特例の適用方法

事前の届出は必要なく、消費税の確定申告書に2割特例の適用を受ける旨を付記することで適用を受けることができる。

2割特例が適用できないケース

消費税の申告を行うたびに2割特例の適用を受けるか否かの選択が可能。ただし、申告する課税期間が2割特例の適用対象となるか否かの確認が必要となる。例えば、図にあるとおり、2026年分の申告について、2024年(基準期間)における課税売上高が 1千万円を超える場合には、2割特例は適用できない。

ここがポイント

2年前の課税売上高が1千万円を超える課税期間(年)がある場合、その課税期間は、2割特例の適用対象外。

 

一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置(少額特例)

1万円未満の課税仕入れ(経費等)について、 インボイスの保存がなくても帳簿の保存のみで仕入税額控除ができるようになる。

対象者

基準期間における課税売上高が1億円以下又は特定期間(※)における課税売上高が5千万円以下の農業者が、適用対象者となる。
※ 「特定期間」とは、個人農業者については前年1~6月までの期間をいい、農業法人については前事業年度の開始の日以後6月の期間をいう。

対象となる期間

少額特例は、2023年10月1日から2029年9月30日までの期間が適用対象期間となり、その間に行う課税仕入れが適用対象となる。そのため、たとえ課税期間の途中であっても、2029年10月1日以後に行う課税仕入れについては、少額特例の適用はない。

ここがポイント

仕入税額控除にはインボイスの保存が必要。ただし、少額特例の対象になる場合は、帳簿のみ(6年間)で仕入税額控除(1万円未満)OK!

少額特例は、「税込」1万円未満の課税仕入れが適用対象になる。例えば、くわ、かま、バケツ、スコップなどの小道具やビニール、わら、むしろ、なわ、釘、針金などの諸材料費や農畜産物の販売に要する包装資材・出荷資材や作業衣、地下足袋、長靴、帽子など作業用衣料費が対象になると考えられる。

少額特例の対象になるか事例で理解しよう!

事例1

少額特例の判定単位は、課税仕入れに係る1商品ごとの金額により判定するのではなく、一回の取引の合計額が1万円未満であるかどうかにより判定する。
例えば、9,000円のくわと8,000円の長靴を同時に購入した場合、17,000 円の取引となるので、少額特例の対象とはならない。

事例2

人手不足のため、月額200,000円(作業日21日)で酪農ヘルパーに外注している。作業日で按分すると1万円未満となる。少額特例の判定単位は、一回の取引の合計額が1万円未満であるかどうかにより判定する。役務の提供である場合には、通常、約した役務の取引金額による。そのため、月単位での取引(200,000円の取引)と考えられるので、少額特例の対象とはならない。

 

少額な返還インボイスの交付義務免除

「税込」1万円未満の返品・値引き・割戻しなどの売上げに係る対価の返還等について、返還インボイスの交付義務が免除される。対象になる方は、すべての方。対象となる期間については、上記の2割特例や少額特例と違い、適用期限のない恒久的な措置となる。

ここがポイント

売り手が負担する振込手数料相当額を売上値引きとして処理している場合には、返還インボイスの交付義務免除の対象となる。

 

登録制度の見直しと手続の柔軟化

2023年10月1日のインボイス制度の開始にあわせて登録を受けるための期限は、2023年3月 31 日とされているが、4月以降の登録申請であっても、9月30日までに行われたものについては、インボイス制度が開始する2023年10月1日に登録を受けることが可能だ。
※ 免税事業者の方が2023年10月2日以後の日の登録を希望する場合には、登録申請書に登録希望日を記載する必要がある。

 

最後に

個々の農業者ごとに置かれている状況は異なるが、2023年10月の制度施行に向けて、農業者の方は準備万端で臨んでいただきたい。今回改正点をクローズアップしてきたが、以前公開した記事も参考に制度を理解し備えていただくことを望む限りである。

ABOUT執筆者紹介

佐藤宏章

公認会計士/税理士/農業経営アドバイザー
公認会計士・税理士 佐藤宏章事務所 代表

秋田県農家出身(酪農・メロン・水稲)。東京農業大学農学部農学科卒業後、農業経営者に的確なアドバイスをと一念発起し、公認会計士資格取得。監査法人勤務を経て、「日本初の農業に特化した専門家」として独立開業。

農業経営者に会計・税務・経営をわかりやすく伝えることをモットーに、全国各地で活動中。企業・自治体・大学・税理士会等向けに講演、「羽鳥慎一モーニングショー」(テレビ朝日)「めざましテレビ」(フジテレビ)その他メディア出演も多数。かつてないスタイルで唯一無二の存在と信頼を集める。

日本初の農業に特化した専門家ホームページ

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