子どもと話したいお金と税金のはなし[第2回]:人生いろいろ控除もいろいろ
おんすけと学ぶ税務情報
大人になるために避けてとおれない、けれど難しいお金や税金のこと。本コラムでは、経営者や経理担当者のみなさんが子どもとお話をするきっかけになるように、身近な事例を取り上げて解説します。
第2回では、直近の税制改正の内容も踏まえて、ライフイベントと税金の関係について考えてみましょう。人生は選択の連続といいますが、所得税という税金が個人を対象にしている以上、ライフイベントと税金は切っても切り離せない関係にあるのです。
個人を対象にした税金:所得税
所得税は,個人が暦年(1年間)に得た所得を10種類に区分して税金を課すしくみとなっています。所得を区分する理由は、所得の性質によって「税を担う力(担税力といいます)」が異なるためです。たとえば、資産から生じた所得は担税力が高く、勤労から生じた所得は担税力が低いと考えられています。
所得税は個人に対して課されますが、家族の構成や本人の状況などは個人によりさまざまです。そこで所得税法では、ひとりひとり異なる担税力に配慮するため、所得控除というしくみが設けられています。
所得の額から一定額を差し引くしくみである所得控除の種類は、かなり雑多で(図表1)、時代や制度に対応して改正が行われてきた経緯があります。以下では、ライフイベントと特に関係しそうなものを取り上げてみましょう。
(図表1 所得控除の種類)
- 基礎控除(所得税法86条)
- 配偶者控除(同法83条)、配偶者特別控除(同法83条の2)
- 扶養控除(同法84条)
- 障害者控除(同法79条)
- 寡婦(寡夫)控除(同法80条)、ひとり親控除(同法81条)、勤労学生控除(同法82条)
- 雑損控除(同法72条)、医療費控除(同法73条)、社会保険料控除(同法74条)、小規模企業共済等掛金控除(同法75条)、生命保険料控除(同法76条)、地震保険料控除(同法77条)、寄附金控除(同法78条)
結婚したり家族が増えたら
所得税法では、一緒に生活している家族に配慮したしくみが設けられています。本人と家族の最低限度の生活に必要な部分は、税金を担う力が弱いと考えられているためです。よく知られている基礎控除、配偶者控除、配偶者特別控除、および扶養控除は、配偶者や扶養している家族の状況などに応じて一定額を所得額から差し引くものですが、これは憲法25条の生存権の保障の現れといわれています。
このうち配偶者控除における配偶者は法律上の婚姻関係にある人に限られています。事実婚のようなケースでは、現在は配偶者控除および配偶者特別控除を適用することはできません。
また、扶養控除は、いままで児童手当との関係で改正が行われてきました。令和6年度税制改正では、子育て世帯に対する税制面での支援として、令和6年10月から所得にかかわらず児童手当の対象を18歳までの高校生年代まで延長しつつ、その一方で、扶養控除の金額が38万円から25万円に縮小する方針が示されています。時代や制度に対応して、今後も内容が変化していくことが予想されます。
年金や健康保険料を支払ったら
所得税法では、社会保障に配慮したしくみも設けられています。たとえば、20歳以上になると国民年金への加入が法律で義務付けられていますが、国民年金保険料を支払ったらその分を所得額から差し引く所得控除が認められます。国民年金、国民健康保険などの保険料の支払いに充てた部分は、税を担う力が弱いと考えられているためです。
同様に、社会保障プログラムの一環として、障害者やひとり親に配慮したしくみも設けられています。これらの控除も時代や制度に対応して内容が変化していくことが多く、たとえば、令和6年度税制改正では「ひとり親控除」が拡充されることとなりました。
令和6年度税制改正では、子育て世代などに対する支援として、ひとり親控除につき、所得の制限を現行の500万円から1000万円に引き上げたうえで、控除額も現行の35万円から38万円に拡大される方針が示されています。
病気になったり災害にあったら
所得税法では、災害または盗難もしくは横領によって損害を受けたり、医療費を支払ったりした場合には、所得控除が認められる場合があります。前者を雑損控除、後者を医療費控除といいます。これらの控除が設けられているのは、災害などによる損失や医療費の支払いが、税を担う力を弱めると考えられているためです。
さて、新聞やテレビでもよく報じられている振込め詐欺の被害にあった場合はどうでしょうか?実は、詐欺や恐喝などの場合には、雑損控除を受けることはできません。雑損控除の対象になるのは、以下のケースに限られているためです。
① 震災、風水害、冷害、雪害、落雷など自然現象の異変による災害
② 火災、火薬類の爆発など人為による異常な災害
③ 害虫などの生物による異常な災害
④ 盗難
⑤ 横領
また、「生活に通常必要でない資産」は雑損控除の対象から除かれています。そのため、アート作品などの盗難により被った損失も、雑損控除の対象にならないのです。
マイホームを買ったら
すこし特殊な位置付けのものとして、住宅ローン控除や寄附金控除があります。いままで紹介したものと比較して、政策的色彩が強いという点で異なります。そのため、制度を利用できる期間が限られていたり、条件や範囲が限定されていたりすることが多いのです。
たとえば、住宅ローン控除は、人生で大きな買い物のひとつであるマイホームの取得などを後押しするための制度ですが、温室効果ガスの排出を全体としてゼロにするカーボンニュートラルを目指すという政府の宣言にともなって、令和6年以後は省エネ基準を満たさない新築住宅について利用することができなくなります(令和5年以前に建築確認を受けたものまたは令和6年6月30日以前に建築されたものを除きます)。なお、これは新築住宅についての条件なので、中古住宅の取得や増改築等には求められていません。
また寄附金控除は、教育、文化、スポーツ、学術などの振興のための民間寄附を促す目的で設けられている制度です。対象となる寄附先は限定されていますが、寄附をすれば所得控除または税額控除が認められます。ふるさと納税も寄附金控除の仲間といえます。
ライフイベントと税金
人生にはさまざまなイベントや選択がつきまとうものですが、どれも税金とは切っても切り離せない関係にあります。そして、税金のルールも一定ではなく、社会の変化に対応すべく、毎年のようにアップデートされているのです。
人生の選択をしたら、税金にどのように影響してくるのか。本コラムをきっかけに、ライフイベントと税金の関係について注目してみてはいかがでしょうか?
ABOUT執筆者紹介
税理士 武田紀仁
クリエイターとスモールビジネスを支える税理士。クリエイティブ産業で活動する中小法人や、漫画家・イラストレーター・デザイナー・ものづくり作家などの個人事業主(フリーランス)を対象とした税務・会計・経営アドバイザリーサービスを得意とする。また、自身のもう一つのライフワークとして、文化芸術領域の会計と情報開示についての研究活動も行っている。