23 August

起業後、何社が生き残る?息の長いビジネスに必要なこと[シリーズ第1回]実録!30人の起業5年後を追う

掲載日:2023年08月23日   
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「起業後5年以内に6割が廃業する」という衝撃的な統計があります(2006年版「中小企業白書」)。意気込んで起業しても5年後まで生き残れるのは10社中4社だけだというのですから、商売の厳しさを感じずにはいられません。

筆者はこれまで、行政機関の起業相談員として200件を超える起業相談に対応してきました。このシリーズでは「息の長いビジネスに必要なこと」というテーマで、起業の実態と、そこから見える成功要因をお示ししていきます。

「起業後5年以内に6割が廃業」は本当か?

冒頭に挙げた「起業後5年以内に6割が廃業」という統計データは、起業後の生存率に関する話題でよく引き合いに出されるもので、中小企業庁の「中小企業白書」に掲載されたものです。しかし筆者の起業相談現場での実体験に照らすと、皆さんもっと堅実に生き残っておられると感じます。

この統計データは「工業統計表」が元になっているもので、実は調査対象が製造業に限定されています。大手メーカーの子会社の統廃合などの事情が含まれていたり、最近の起業に多い業種である飲食、IT、福祉などが含まれていなかったりするためか、実態と少々乖離するのは致し方ありません。起業後の生存率を追跡調査した統計データが他に無いのでこれは貴重なデータではあるのですが、「実態より厳しめな数字かもしれない」という認識のもとで参考にするのがよいでしょう。

実録!筆者が見た30人の起業5年後

では、筆者が起業相談の現場で見守ってきた方々の生存率はどうでしょうか。実際に起業した方々のうち、起業後の軌跡を筆者が5年以上見守ることができた30人について、5年後の状況を整理しました。すると下図の通り、約7割が5年後まで生き残っています。

わずか30人の事例ですから、統計データほどの膨大なサンプル数に裏付けられたものではありませんが、これは筆者の目の前で現実に繰り広げられた実録です。30人の方々の業種は、飲食業、人材紹介や教育、専門サービスなどのサービス業、卸、福祉、ソフトウェア開発、ハイテク系のハードウェア製造業といった、近年の起業によく見られる業種が偏りなく含まれています。

廃業したケースのほとんどが「未経験分野」での起業

前述の30人の軌跡で特筆すべきことは、廃業したケースのほとんどが未経験分野での起業であったということです。廃業した8社のうち、未経験分野での起業は実に7社にのぼります。逆に、5年後まで生き残っていた22社のうち、未経験分野での起業は1社だけです。このように、「経験分野か未経験分野か」が生存率を大きく分けています。
「未経験分野での起業」にカウントしたケースは、創業者ご自身に勤務経験がない業種で起業したケースです。アイデアを凝らしたユニークなビジネスもこれに含まれます。また、その業種での勤務経験はあっても、「売上をつくる経験」や「経営に近い経験」がない、つまり、営業職の経験、または管理職の経験がないケースも「未経験」にカウントしました。
もちろん「未経験分野での起業だから必ず失敗する」というわけではありません。むしろユニークなビジネスが時流にマッチして大成功することもあります。しかし、経験分野での起業に比べるととにかく圧倒的に難易度が高いので、生存率が低いのです。

経験分野での起業なら、5年生存率は95%

前述の30人のうち、経験分野で起業したケースを数えると21社あります。そのうち5年経過時点で生き残っているのが20社です。つまり、経験業種での起業に限って言えば5年生存率は95%。ほぼ全てが5年後も生存しているのです。

一方、30人のうち、未経験分野で起業したケースは9社ですが、そのうち5年経過時点で生き残っているのが2社です。つまり、未経験業種での起業に限って言えば5年生存率は22%。経験業種での生存率95%とは大きな差があります。

これは筆者が対応したわずか30人の事例にすぎないので、普遍的に当てはまる生存率とは言えませんが、生存率に大きな差があることは確かです。未経験分野での起業にチャレンジするなら、ノウハウ本やセミナーで得た知識だけで起業するのではなく、せめてアルバイトとしてでもその業種で実際に勤務して実体験を伴う勉強をすることが、生存率を高めることにつながるでしょう。

起業に関する情報収集をすると、どうしてもドラマチックな事例や厳しさを示すデータが目につくものです。しかし今回のコラムでお示しした通り、堅実な起業に限って言えば多くの方が高確率で生き残っておられます。起業を志す方々にはぜひあまり悲観することなく挑戦してほしいものです。生き残れるかどうかは、起業準備段階における綿密な準備と、起業後の取り組み次第です。

このシリーズは「起業後、何社が生き残る?息の長いビジネスに必要なこと」というテーマで、次回以降も起業の実態や成功要因をお示ししていきます。次回第2回のコラムでは、起業の準備段階で心がけるべきことを取り上げます。

ABOUT執筆者紹介

経営コンサルタント 古市今日子

株式会社 理 代表取締役
経済産業大臣登録 中小企業診断士

外資コンサルティングファームなどで16年間経営支援の経験を積み、2016年独立。
事業再生に携わるほか、自治体の経営相談員や創業支援施設の経営指導員などを務める。
中小事業者・起業希望者の経営相談への対応件数は年間約200件

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